ライフ

三遊亭円丈 シコシコ食感にしたくナメクジ塩茹でにした過去

 4月を東京で、まさにページをめくるような心持ちで迎える人は今も昔も多い。「上京」という言葉には、期待と不安、志や覚悟、惜別・郷愁といった様々な感情が濃密に内包されている。物語は人の数だけある。落語家・三遊亭円丈氏(67)の場合。

 * * *
 かれこれ50年前になりますねえ……明治大学に入学するために名古屋から出てきました。とにかくお金がなくて、ひと月分の仕送りは5日で無くなりました。餓死したくはありませんから米だけ買って、味噌さえあれば生きていけるという計算でした。ところが、計画が狂って煮干し5匹で1週間過ごすはめになったりしました(笑い)。
 
 ひどい時など、お金がなくなり、食べるものも底を突き、蛙を探しに行ったんですが、見つからないからナメクジを捕まえて食べたこともあります。シャレじゃありませんから、まずは表面のヌルヌルを取って、シコシコした食感にしたかったので塩茹でにしてみました。さらに塩で揉み洗いして、もう一度煮て……でも、全然ダメでした。
 
 小さく縮んだナメクジを飲み込んだ時の、喉を通る時の何ともいえない「ズル~」とした感触がいまだに忘れられません。喉に割り箸を突っ込んで取りたかったくらいで、ひと口でやめました(笑い)。
 
 お金がないから、無茶な賭けもしました。尾籠な話ですからお客さんも引いちゃうので、寄席で喋ったのは一度くらいしかありませんが、3000円賭けて「汲み取り式の便所に浸けた白糖を僕が食えるか?」という賭けです(笑い)。
 
 食えなければ僕がお金を払うのですから必死です。一応白糖はビニールで密封されているのですが、ミシン目のようなところから染み込んでくる。ちょうど真ん中のところだけが白く残っていたので、思い切ってそれを飲み込んで……3000円貰いました(笑い)。
 
 それから、当時は毎日のように下宿の仲間と飲みに行っていたんだけど、一度もお金を払ったことがない。不思議なんですけど、なんとかなっちゃったんですよね(笑い)。
 
 そもそも僕が明治大学に進学したのは、家業の写真館を継ぎたくなかったからです。親は勝手に僕が継ぐものと決めつけていましたが、小学生のころから嫌で嫌で仕方ありませんでした。高校2年の時に噺家になると決めてからは、親父とはずっと平行線で、「じゃあ、とりあえず大学へ行け」ということになった。東京の大学に行けばこっちのものだと思って明治大学に入ったというわけです。
 
 今でも覚えているのは、大学に納入金を払うために親父と一緒に上京した時のことです。そのとき泊まったのが、新宿、大久保あたりのいわゆる連れ込み宿みたいなところだった。素泊まりで安かったからだろうと思いますが、宿の女中さんに「親子みたいな男同士でそんなことするのか」っていう目で見られて恥ずかしかった(笑い)。
 
 大学時代は本当にお金がありませんでしたが、貧乏も時間が経てば自慢にも自信にもなります。学生として上京するなら、私がしたくらいのバカをやってもいいんじゃありませんかね。

※週刊ポスト2012年4月20日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

まだ重要な問題が残されている(中居正広氏/時事通信フォト)
中居正広氏と被害女性Aさんの“事案後のメール”に「フジ幹部B氏」が繰り返し登場する動かぬ証拠 「業務の延長線上」だったのか、残された最後の問題
週刊ポスト
生徒のスマホ使用を注意しても……(写真提供/イメージマート)
《教員の性犯罪事件続発》過去に教員による盗撮事件あった高校で「教員への態度が明らかに変わった」 スマホ使用の注意に生徒から「先生、盗撮しないで」
NEWSポストセブン
(写真/イメージマート)
《ロマンス詐欺だけじゃない》減らない“セレブ詐欺”、ターゲットは独り身の年配男性 セレブ女性と会って“いい思い”をして5万円もらえるが…性的欲求を利用した驚くべき手口 
NEWSポストセブン
遠野なぎこ(本人のインスタグラムより)
《ブログが主な収入源…》女優・遠野なぎこ、レギュラー番組“全滅”で悩んでいた「金銭苦」、1週間前に公表した「診断結果」「薬の処方」
NEWSポストセブン
京都祇園で横行するYouTuberによる“ビジネス”とは(左/YouTubeより、右/時事通信フォト)
《芸舞妓を自宅前までつきまとって動画を回して…》京都祇園で横行するYouTuberによる“ビジネス”「防犯ブザーを携帯する人も」複数の被害報告
NEWSポストセブン
由莉は愛子さまの自然体の笑顔を引き出していた(2021年11月、東京・千代田区/宮内庁提供)
愛子さま、愛犬「由莉」との別れ 7才から連れ添った“妹のような存在は登校困難時の良きサポート役、セラピー犬として小児病棟でも活動
女性セブン
インフルエンサーのアニー・ナイト(Instagramより)
海外の20代女性インフルエンサー「6時間で583人の男性と関係を持つ」企画で8600万円ゲット…ついに夢のマイホームを購入
NEWSポストセブン
ホストクラブや風俗店、飲食店のネオン看板がひしめく新宿歌舞伎町(イメージ、時事通信フォト)
《「歌舞伎町弁護士」のもとにやって来た相談者は「女風」のセラピスト》3か月でホストを諦めた男性に声を掛けた「紫色の靴を履いた男」
NEWSポストセブン
『帰れマンデー presents 全国大衆食堂グランプリ 豪華2時間SP』が月曜ではなく日曜に放送される(番組公式HPより)
番組表に異変?『帰れマンデー』『どうなの会』『バス旅』…曜日をまたいで“越境放送”が相次ぐ背景 
NEWSポストセブン
遠野なぎこ(本人のインスタグラムより)
《自宅から遺体見つかる》遠野なぎこ、近隣住民が明かす「部屋からなんとも言えない臭いが…」ヘルパーの訪問がきっかけで発見
NEWSポストセブン
2014年に結婚した2人(左・時事通信フォト)
《仲間由紀恵「妊活中の不倫報道」乗り越えた8年》双子の母となった妻の手料理に夫・田中哲司は“幸せ太り”、「子どもたちがうるさくてすみません」の家族旅行
NEWSポストセブン
詐称疑惑の渦中にある静岡県伊東市の田久保眞紀市長(左/Xより)
《大学時代は自由奔放》学歴詐称疑惑の田久保市長、地元住民が語る素顔「裏表がなくて、ひょうきんな方」「お母さんは『自由気ままな放蕩娘』と…」
NEWSポストセブン