国内

池田信夫氏「橋下首相誕生しても中央の官僚組織に勝てない」

 橋下徹・大阪市長が打ち出している経済政策、いわゆる「ハシノミクス」で橋下氏はどのような社会を目指しているのか。橋下氏とツイッターやブログで活発な議論を交わした経済学者の池田信夫氏が論じる。

 * * *
 目下の最大の政治的課題は消費税増税だが、これに関する橋下氏の発言は矛盾に満ちている。この問題については、私のブログと橋下氏のツイッターで、お互いを批判し合った。

 例えば、橋下氏は今年4月4日のツイッターで「僕は消費税増税を否定しない。ただ今の民主党の増税には反対だ。消費税を地方に渡して、地方の判断で増税することには賛成だ」と述べ、同様に大阪維新の会が発表した「維新の八策 原案」でも、「地方交付税の廃止と地方間財政調整制度(財源の地方間格差を調整するための制度)」を提唱し、「消費税は地方税に」と訴えている。

 これらは橋下氏が強く主張する地方分権の推進を目的とした政策だが、財務省が使途を限定するヒモ付き地方交付税と違い、地方官僚に消費税を丸投げして自由に使わせれば、無駄なバラマキ福祉に使われるだけだ。

 橋下氏が「今の民主党の増税には反対」と述べる本当の理由は、消費税増税に反対している小沢一郎氏との連携狙いだろう。だが、橋下氏は無知か意図的な勘違いのどちらかだが、小沢氏はもともと消費税増税論者である。

 竹下内閣の官房副長官として消費税の導入を進めたのも小沢氏だし、細川内閣で、結局は頓挫したものの、消費税を「国民福祉税」に変え、税率を3%(当時)から7%に上げる方針を進めたのも小沢氏だ。今、消費税増税に反対しているのは、「反小沢」執行部を倒すためで、政治的方便にすぎない。

 ただし、小沢氏と組むという政局的な勘は悪くない。資金力・組織力のある小沢グループと国民人気の高い橋下氏の大阪維新の会が組めば、次の総選挙で第1党になり、「橋下首相・小沢幹事長」という細川内閣に似た体制が実現する可能性はある。

 しかし、仮に「橋下首相」が誕生したとしても、今のように官僚組織を敵に回して勝てるのは地方止まりで、中央政府では通用しない。300議席を取った民主党ですら、霞が関に敗北し、逆に取り込まれてしまった。

 もしも「橋下首相」が「ハシノミクス」を実現したいならば、今のように“脱藩官僚”ばかりでなく、霞が関の「中」、とりわけ中枢中の中枢である財務省を陣営に取り込む必要がある。かつての細川政権時代、小沢氏は、斎藤次郎大蔵事務次官(当時)と組んで官僚機構の変革に取り組み、ある程度の成果を出した。今はその時以上に、国の行く末に危機感を抱いている官僚は多い。

 橋下氏は自らを坂本龍馬になぞらえているが、実際に明治維新を成し遂げたのは死ぬまで政府の中枢で仕事をした大久保利通である。維新の成否は、彼がいかに多くの大久保利通を取り込めるかにかかっている。

※SAPIO2012年5月9・16日号

関連記事

トピックス

政治資金の使途について藤田文武共同代表はどう答えるか(時事通信)
《政治資金で使われた赤坂キャバクラは新規60分4000円》維新・奥下議員が訪れたリーズナブルなキャバの店内は…? 「モダンな内装に個室もなく…」 コロナ5類引き下げ前のタイミング
NEWSポストセブン
山上徹也被告(共同通信社)
「旧統一教会から返金され30歳から毎月13万円を受け取り」「SNSの『お金配ります』投稿に応募…」山上徹也被告の“経済状況のリアル”【安倍元首相・銃撃事件公判】
NEWSポストセブン
神奈川県藤沢市宮原地区にモスクが建設されることが判明した(左の写真はサンプルです)
《イスラム教モスク建設で大騒動》荒れる神奈川県藤沢市 SNSでは「土葬もされる」と虚偽情報も拡散 市議会には多くの反対陳情が
NEWSポストセブン
イギリス出身のインフルエンサー、ボニー・ブルー(Instagramより)
《バリ島でへそ出しトップスで若者と密着》お騒がせ金髪美女インフルエンサー(26)が現地警察に拘束されていた【海外メディアが一斉に報じる】
NEWSポストセブン
いまだ“会食ゼロ”だという
「働いて働いて…」を地で行く高市早苗首相、首相就任後の生活は“寝ない”“食べない”“電話出ない” 食事や睡眠を削って猛勉強、激ヤセぶりに周囲は心配
女性セブン
大谷が語った「遠征に行きたくない」の真意とは
《真美子さんとのリラックス空間》大谷翔平が「遠征に行きたくない」と語る“自宅の心地よさ”…外食はほとんどせず、自宅で節目に味わっていた「和の味覚」
NEWSポストセブン
逮捕された村上迦楼羅容疑者(時事通信フォト)
《闇バイト強盗事件・指示役の“素顔”》「不動産で儲かった」湾岸タワマンに住み、地下アイドルの推し活で浪費…“金髪巻き髪ギャル”に夢中
NEWSポストセブン
「武蔵陵墓地」を訪問された天皇皇后両陛下の長女・愛子さま(2025年12月3日、撮影/JMPA)
《曾祖父母へご報告》グレーのロングドレスで参拝された愛子さま クローバーリーフカラー&Aラインシルエットのジャケットでフェミニンさも
NEWSポストセブン
2021年に裁判資料として公開されたアンドルー王子、ヴァージニア・ジュフリー氏の写真(時事通信フォト)
《約200枚の写真が一斉に》米・エプスタイン事件、未成年少女ら人身売買の“現場資料”を下院監視委員会が公開 「顧客リスト」開示に向けて前進か
NEWSポストセブン
指示役として逮捕された村上迦楼羅容疑者
「腹を蹴れ」「指を折れ」闇バイト主犯格逮捕で明るみに…首都圏18連続強盗事件の“恐怖の犯行実態”〈一回で儲かる仕事 あります〉TikTokフォロワー5万人の“20代主犯格”も
NEWSポストセブン
海外セレブの間では「アスレジャー
というファッションジャンルが流行(ケンダル・ジェンナーのInstagramより)
《広瀬すずのぴったりレギンスも話題に》「アスレジャー」ファッション 世界的に流行でも「不適切」「不快感」とネガティブな反応をする人たちの心理
NEWSポストセブン
2018年、女優・木南晴夏と結婚した玉木宏
《ムキムキの腕で支える子育て》第2子誕生の玉木宏、妻・木南晴夏との休日で見せていた「全力パパ」の顔 ママチャリは自らチョイス
NEWSポストセブン