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高給取りの都バスドライバーを支える「東電株マジック」とは

 過密スケジュールでハンドルを握り続け、事故を起こした高速バス運転手の日給は1万円だった。規制緩和によるバス会社の参入増加と熾烈な価格のダンピングで、苛酷な労働を強いられている民間ドライバーの実態が明らかになった。その一方で、公務員のバス運転手は「ドライバー貴族」といえる厚遇ぶりだ。

 総務省が2009年、民間の貸し切りバス運転手を対象に行なった調査では、89%の運転手が睡魔や居眠り経験があり、61%はその原因が「厳しい運行日程」だと答え、連続勤務が30日以上と告白する運転手もいた。

「寝ずに働いても月収が手取り10万円ちょっとというワーキングプアの運転手も多い」(高速バス運転手)

 一方で、自治体の運営するバスの運転手は格段に恵まれている。

 例えば大阪の市バス運転手の平均年収は739万円で、在阪の私鉄系バス会社より195万円高い。ところが市バス事業は28年連続の赤字で、今年2月、橋下徹・市長は「民間並みに合わせる」と4割カットの方針を打ち出した。

 それでは首都・東京の都バスはどうか。厚労省の調査によれば、東京都の民間バス会社社員の平均収入は573万円である。しかし都バス運転手の平均年収は736万円と、大阪市と同様に民間より格段に高い。都交通局関係者はこういう。

「退職直前には年収800万、900万円になるドライバーもいます。2007年には都議会で民間の年収より高いという指摘が出ましたが、改正は10%削減にとどまったのでホッとしました」

 過剰なバスの所有も疑われる。東京の路線バスの営業距離は781キロで、大阪府の587キロと比べると1.3倍ほどの長さだ。ところが大阪市が保有する車両台数が663台であるのに対し、都は1462台と大阪の2倍。地下鉄網が発達する東京で、これだけの台数が必要なのか疑問だ。

 都では豊富なバスを観光車両としても運行しており、年間で延べ794台、4億円近い売り上げを計上している。民間業者からは「民業圧迫だ」という声もある。

 労働条件や手当も充実している。都バス運転手は1週間に2日連続の休日を取ることが義務づけられる。長時間拘束に対しては「交代制勤務者等業務手当」があり、2時間以上待機した場合は10分ごとに50円の手当が支給される。

 こうした厚遇ぶりにもかかわらず、都バスは大阪のような形で問題視されてはいない。それは“黒字”だからだ。2010年度決算の黒字額は10億900万円に上っている。

 ところが、これがインチキなのだ。この黒字はバス事業収入ではない。あまり知られていないが、都の交通局は東電株だけで毎年25億円の配当を受けており、その収益によって黒字となる。東電利権が「ドライバー貴族」を支えていたというわけだ。

 そもそも、なぜ東電株の配当が交通局の、しかもバス部門に入っているのか。

「都の交通局の前身は東京市電気局でした。戦中の配電統制令で、電気局の設備を東電の前身である関東配電に現物出資したため、交通局が株を取得し、配当もこちらに入っています。

 元々は都電の収入にしていたのですが、都電の多くがバス路線に転換したためにバス事業の収入にしました」(交通局総務部)

 ところが、その頼みの綱の東電株は原発事故で配当がゼロに。インチキで“黒字”といえなくなった。

「2012年度予算では、バス事業は約10億円の赤字を見込んでいます」(同前)

 貴族もいよいよ年貢の納め時だ。

※週刊ポスト2012年5月25日号

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