国際情報

中国の暴動・デモ1日548件 公安費予算9.1兆で国防費上回る

 日本を追い抜きGDP世界第2位を達成した中国だが、これからもその繁栄は続くのか。そんなことはないと警鐘を鳴らすのは、ベストセラー『チャイナ・インパクト』で中国“繁栄の10年”を予見した大前研一氏だ。以下、大前氏の解説である。

 * * *
 中国は今、企業の従業員の賃金を毎年15%ずつ引き上げて、2011―2015年の第12次5か年計画の期間で2倍にする「所得倍増計画」を推進している。

 だが、現時点でも中国のブルーカラーの人件費は月3万~5万円(ホワイトカラーは10万円)で、タイ(2万~3万円)やインドネシア(2万円)、ベトナム(1万円)など他のアジア新興国より高く、新たな低コスト生産拠点として注目を集めているミャンマーやバングラデシュ(3500円)の10倍になっている。

 中国政府は高騰した人件費に対応するため、労働集約型産業を沿海部から内陸部に移し、沿海部の産業高度化とともに内陸部の底上げを図ろうとしているが、内陸部に行っても賃金は3割程度しか安くならない。

 もし計画通り賃上げしたら、数年後には中国の賃金がアメリカのブルーカラーの賃金を上回ることになり、企業は中国から逃避せざるを得なくなる。それに加えて人民元が高くなれば、中国はダブルで競争力を失っていく。

 しかも、今の中国のようなイノベーションや生産性の向上を伴わない人件費の高騰はインフレ要因でしかない。したがって、人民元は変動相場制になったら安くなり、場合によっては暴落する、というシナリオしか描けないのである。

 中国政府が、賃金は市場経済で決まるという原則を無視してまで、賃金を上げようとしている理由は、民衆蜂起を恐れているからだ。中国各地では、貧富の差の拡大や役人の腐敗・汚職に怒った民衆の暴動やデモ(群体性事件)が頻発しており、昨年は約20万件に達したという情報もある。なんと1日当たり548件。収拾不能な数字である。

 このため、それを取り締まる公安費(公共安全費)が2010年以降、膨張を続ける国防費をも上回るという異常事態になっている。2012年予算では公安費が7018億元(約9兆1000億円)、国防費が6703億元(約8兆7000億円)。もはや公安は公共の安全を守る組織ではなく“民衆蜂起から不正官僚を守る”ための組織に成り下がってしまった観がある。

 ことほどさように民衆蜂起の危険性が高まっているため、政府は民衆の怒りを和らげようと、企業にシワ寄せをしているわけだ。だが、暴動やデモが頻発している背景には、賃上げだけでは解決できない国民の鬱積した不満がある。

※SAPIO2012年6月6日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

海外セレブも愛用するアスレジャースタイル(ケンダル・ジェンナーのInstagramより)
「誰もが持っているものだから恥ずかしいとか思いません」日本の学生にも普及する“カタチが丸わかり”なアスレジャー オフィスでは? マナー講師が注意喚起「職種やTPOに合わせて」
NEWSポストセブン
政治資金の使途について藤田文武共同代表はどう答えるか(時事通信)
《政治資金で使われた赤坂キャバクラは新規60分4000円》維新・奥下議員が訪れたリーズナブルなキャバの店内は…? 「モダンな内装に個室もなく…」 コロナ5類引き下げ前のタイミング
NEWSポストセブン
山上徹也被告(共同通信社)
「旧統一教会から返金され30歳から毎月13万円を受け取り」「SNSの『お金配ります』投稿に応募…」山上徹也被告の“経済状況のリアル”【安倍元首相・銃撃事件公判】
NEWSポストセブン
神奈川県藤沢市宮原地区にモスクが建設されることが判明した(左の写真はサンプルです)
《イスラム教モスク建設で大騒動》荒れる神奈川県藤沢市 SNSでは「土葬もされる」と虚偽情報も拡散 市議会には多くの反対陳情が
NEWSポストセブン
イギリス出身のインフルエンサー、ボニー・ブルー(Instagramより)
《バリ島でへそ出しトップスで若者と密着》お騒がせ金髪美女インフルエンサー(26)が現地警察に拘束されていた【海外メディアが一斉に報じる】
NEWSポストセブン
いまだ“会食ゼロ”だという
「働いて働いて…」を地で行く高市早苗首相、首相就任後の生活は“寝ない”“食べない”“電話出ない” 食事や睡眠を削って猛勉強、激ヤセぶりに周囲は心配
女性セブン
大谷が語った「遠征に行きたくない」の真意とは
《真美子さんとのリラックス空間》大谷翔平が「遠征に行きたくない」と語る“自宅の心地よさ”…外食はほとんどせず、自宅で節目に味わっていた「和の味覚」
NEWSポストセブン
逮捕された村上迦楼羅容疑者(時事通信フォト)
《闇バイト強盗事件・指示役の“素顔”》「不動産で儲かった」湾岸タワマンに住み、地下アイドルの推し活で浪費…“金髪巻き髪ギャル”に夢中
NEWSポストセブン
「武蔵陵墓地」を訪問された天皇皇后両陛下の長女・愛子さま(2025年12月3日、撮影/JMPA)
《曾祖父母へご報告》グレーのロングドレスで参拝された愛子さま クローバーリーフカラー&Aラインシルエットのジャケットでフェミニンさも
NEWSポストセブン
2021年に裁判資料として公開されたアンドルー王子、ヴァージニア・ジュフリー氏の写真(時事通信フォト)
《約200枚の写真が一斉に》米・エプスタイン事件、未成年少女ら人身売買の“現場資料”を下院監視委員会が公開 「顧客リスト」開示に向けて前進か
NEWSポストセブン
指示役として逮捕された村上迦楼羅容疑者
「腹を蹴れ」「指を折れ」闇バイト主犯格逮捕で明るみに…首都圏18連続強盗事件の“恐怖の犯行実態”〈一回で儲かる仕事 あります〉TikTokフォロワー5万人の“20代主犯格”も
NEWSポストセブン
海外セレブの間では「アスレジャー
というファッションジャンルが流行(ケンダル・ジェンナーのInstagramより)
《広瀬すずのぴったりレギンスも話題に》「アスレジャー」ファッション 世界的に流行でも「不適切」「不快感」とネガティブな反応をする人たちの心理
NEWSポストセブン