ライフ

岩瀬達哉氏も取材力に舌を巻いた東電を取り巻く闇を暴いた本

【書評】『東電国有化の罠』(町田徹/ちくま新書/798円)

【評者】岩瀬達哉(ノンフィクション作家)

 * * *
 東日本大震災によって、東京電力の福島第一原発は、文字通り壊滅した。一方で、「震源地(牡鹿半島の東南東沖130km)から、距離的に最も近い場所に立地する」東北電力の女川原発は、まったくと言っていいほどの無傷だった。同じ13mの津波に襲われたにもかかわらず巨大な堤防が、原子炉を守ってくれたのだ。

 明暗を分けた背景には、東電と行政当局との不透明な関係があったようだ。原発の安全対策について、「東電の先送り姿勢を保安院が黙認した」ことで、福島原発は、さまざまな震災対策が放置されたのである(東北電力は、むしろ積極的に取り組んだ)。

 このような東電と行政庁の関係は“癒着”と言っていいだろう。同様の関係は、「保安院」だけでなく、金融庁や銀行などにも及ぶという。そんな東電と行政庁、そしてメガバンクが造りだすトライアングルに斬り込んだのが本書である。

 原発事故の影響で株価が暴落するなど、経営の危機に直面していた東電に対し、「金融庁が(主力銀行に)『貸してやれ』って言ってしまった」ことで、東電は約二兆円の緊急融資を受けられ、息を吹き返した。そしてこの瞬間から、東電の国有化は既定路線になったと著者は指摘する。

 本書を読むまで、私は、この融資の一部は、「被災者に対する巨額の賠償、汚染された土地・建物」の復旧費用に使われるものと思っていた。ところが二兆円の資金使途には、「被災者への賠償は含まれていない」。賠償や除染の費用などは、「当の東電に自腹を切らせることなく、おカネの問題を丸ごと国家の公的資金(税金)で肩代わりする政策」に取って代わられる。その費用は「すべて合計すると、二〇〇兆円を上回る」可能性が高いという。

 東電を取り巻く国有化の“闇”に光を当て、“罠”として仕掛けられた国民負担に絡む、信じがたい利害関係を抉り出した著者の力量には、ただ、ただ、舌を巻くばかりである。

※週刊ポスト2012年8月10日号

関連記事

トピックス

10月31日、イベントに参加していた小栗旬
深夜の港区に“とんでもないヒゲの山田孝之”が…イベント打ち上げで小栗旬、三浦翔平らに囲まれた意外な「最年少女性」の存在《「赤西軍団」の一部が集結》
NEWSポストセブン
スシローで起きたある配信者の迷惑行為が問題視されている(HP/読者提供)
《全身タトゥー男がガリ直食い》迷惑配信でスシローに警察が出動 運営元は「警察にご相談したことも事実です」
NEWSポストセブン
「武蔵陵墓地」を訪問された天皇皇后両陛下の長女・愛子さま(2025年11月10日、JMPA)
《初の外国公式訪問を報告》愛子さまの参拝スタイルは美智子さまから“受け継がれた”エレガントなケープデザイン スタンドカラーでシャープな印象に
NEWSポストセブン
モデルで女優のKoki,
《9頭身のラインがクッキリ》Koki,が撮影打ち上げの夜にタイトジーンズで“名残惜しげなハグ”…2027年公開の映画ではラウールと共演
NEWSポストセブン
前回は歓喜の中心にいた3人だが…
《2026年WBCで連覇を目指す侍ジャパン》山本由伸も佐々木朗希も大谷翔平も投げられない? 激闘を制したドジャースの日本人トリオに立ちはだかるいくつもの壁
週刊ポスト
2025年九州場所
《デヴィ夫人はマス席だったが…》九州場所の向正面に「溜席の着物美人」が姿を見せる 四股名入りの「ジェラートピケ浴衣地ワンピース女性」も登場 チケット不足のなか15日間の観戦をどう続けるかが注目
NEWSポストセブン
安福久美子容疑者(69)の高場悟さんに対する”執着”が事件につながった(左:共同通信)
「『あまり外に出られない。ごめんね』と…」”普通の主婦”だった安福久美子容疑者の「26年間の隠伏での変化」、知人は「普段どおりの生活が“透明人間”になる手段だったのか…」《名古屋主婦殺人》
NEWSポストセブン
「第44回全国豊かな海づくり大会」に出席された(2025年11月9日、撮影/JMPA)
《海づくり大会ご出席》皇后雅子さま、毎年恒例の“海”コーデ 今年はエメラルドブルーのセットアップをお召しに 白が爽やかさを演出し、装飾のブレードでメリハリをつける
NEWSポストセブン
三田寛子と能條愛未は同じアイドル出身(右は時事通信)
《中村橋之助が婚約発表》三田寛子が元乃木坂46・能條愛未に伝えた「安心しなさい」の意味…夫・芝翫の不倫報道でも揺るがなかった“家族としての思い”
NEWSポストセブン
八田容疑者の祖母がNEWSポストセブンの取材に応じた(『大分県別府市大学生死亡ひき逃げ事件早期解決を願う会』公式Xより)
《別府・ひき逃げ殺人》大分県警が八田與一容疑者を「海底ゴミ引き揚げ」 で“徹底捜査”か、漁港関係者が話す”手がかり発見の可能性”「過去に骨が見つかったのは1回」
愛子さま(撮影/JMPA)
愛子さま、母校の学園祭に“秋の休日スタイル”で参加 出店でカリカリチーズ棒を購入、ラップバトルもご観覧 リラックスされたご様子でリフレッシュタイムを満喫 
女性セブン
悠仁さま(撮影/JMPA)
悠仁さま、筑波大学の学園祭を満喫 ご学友と会場を回り、写真撮影の依頼にも快く応対 深い時間までファミレスでおしゃべりに興じ、自転車で颯爽と帰宅 
女性セブン