薄型テレビはじめ「黒物」と呼ばれる家電は、サムスンやLGといった韓国企業にシェアを奪われて久しいが、これまで日本の技術力やブランド力が高いとされてきた洗濯機、冷蔵庫など「白物家電」までもが海外勢、特に中国企業に侵食され始めている。
その筆頭格が中国家電大手のハイアール(海爾集団)である。日本経済新聞社がまとめた2011年の「主要商品・サービスシェア調査」によると、ハイアールは洗濯機(12.3%)、冷蔵庫(16.5%)ともに世界シェアのトップを独占し、その勢いのまま日本市場でも橋頭堡を築いてきた。
家電ジャーナリストの安蔵靖志氏の解説を聞こう。
「ハイアールはいきなり日本に攻め込んでくるのではなく、今年1月に三洋電機から洗濯機、冷蔵庫事業を買収して傘下に収めました。そのため、三洋が誇っていた『AQUA(アクア)』ブランドの技術力と人材をそのまま継承する形で認知度を上げ、自社ブランド製品との棲み分けをうまく図ってきたのです」
とはいえ、日本の消費者は国内か海外かといったブランドへの「こだわり」は根強い。6月に発売された最新のドラム式洗濯乾燥機「アクアAQW-DJ6000」(ハイアールアクアセールス)を例に、本当に買いなのかを検証してみた。まずは肝心の機能から。
「日本の洗濯文化から生まれた洗濯版で洗う発想を取り入れ、ドラム内の3か所が洗濯版構造になっています。日本製の洗濯機に比べて頑固な汚れも落ちると評判です。しかも、オゾンを注入したそそぎ水を使うので、襟や袖の皮脂汚れも分解してくれますよ」(家電量販店の店員)
やはり技術は“SANYO仕込み”で信頼できそう。次に電気代値上げを控えてますます購入動機の上位にきそうな消費電力についてはどうか。
「洗濯から乾燥まですべて行うと1850Whの電力量がかかり、省エネ効果の高いパナソニックのヒートポンプ式洗濯機と比べるとほぼ2倍。これはネックですが、消費電力の大きい乾燥機能を頻繁に使うかどうかは人それぞれですから、使い方次第といえます」(前出・安蔵氏)
最後に気になる価格について。同製品の実勢価格は18万円前後と決して安くはない。中国や韓国メーカーはコスト競争力が高く低価格というイメージもあるが、「高機能性を考えれば妥当なところ」(量販店店員)との声も。
そして、品質保証やアフターサービスなど管理体制の充実度合いは海外ブランドゆえに特に気になる。ハイアール製品は過去に中国国内で冷蔵庫を開けた女児が感電死したという現地報道があったり、洗濯機でも発煙による火災事故でリコールがあったりと、不安要素も残る。
「いまは研究開発の拠点が京都にあるので技術的な問題もすぐに解消できるし、修理などのアフターサービスは2012年よりパナソニックがやっている。あまり心配する必要はないでしょう」(業界紙記者)
ブランドのこだわりさえなければ決して他社製品に引けを取らない製品といえそうだ。
さて、今後もハイアール製品は日本の白物家電市場を席捲し続けるのか。安蔵氏は奮起を促す意味で、むしろ日本のメーカーにこんな期待を寄せる。
「パナソニックの『プチドラム』や日立の『ビッグドラムスリム』などの洗濯機は、狭いマンションでも設置できますし、振動や騒音といった日本の住環境に即した問題もシビアに解消しています。洗濯機に限らず、日本人の細かい要望に素早く応えられるのは日本企業しかないという自負を持って、今後も付加価値の高い製品をどんどん開発してもらいたいですね」