スポーツ

プロ野球スカウト「投手に球速求めない。感謝の気持ち大事」

 毎夏、日本中を熱狂させる甲子園。プロ野球のスカウトマンにとっては、夏の甲子園が選手選びのクライマックスになる。スカウトマンが語る高校球児について、作家の山藤章一郎氏が報告する。

 * * *
〈肩〉〈送球〉〈守備〉、〈打撃〉〈足〉〈走塁〉に、〈センス〉〈将来性〉。スカウトマンは、年間200試合近く、考課シートのマス目に5段階評価の数字を書き込み、その日のうちに編成部長に送る。

 大阪湾に突き出た人工島・舞洲ベースボールスタジアム。春選抜の優勝校・大阪桐蔭vs近大附属。夏の甲子園・大阪大会準決勝の午前8時半、中日・中田スカウト部長、米村スカウトとともにネット裏に坐る。

「スピードガンを持たずに、選手がコンスタントにどれほどの力を持っているか確かめに、試合に日参しています。性格、技術を観察し、ピッチャーにはスピードを求めません」

 だしぬけに、意表が、両スカウトの口からとびだした。〈みちのくのダル〉と呼ばれる今年の超目玉の160キロピッチャー・大谷翔平を、評価しないのか。以下、ふたりの共通認識、言葉。中田氏は中日で1軍7試合。引退後、30年のスカウト歴。 米村氏、PL学園卒。元・中日投手。引退後、打撃投手を経てスカウトに。

「花巻東(岩手)の大谷は190センチの体で、手足が長く、筋肉が柔らかい。その体があって、160キロ投げられる。凄い。しかしぼくら、雨で順延がつづいて、危惧しとったんです。集中力は? 持続力は? 各バッターに強弱をつける、ストライクゾーンの四隅を投げ分ける技術や精神は? 結果、決勝戦で5失点しました」

 その試合をこの2日前、盛岡市〈県営野球場〉で見た。トンボが舞い、「お車のライトがついたままになっております」とアナウンスが流れる球場である。最速156キロ。15奪三振。だが相手方〈盛岡大附属〉の4番に外角高め148キロを長打された。左翼ポールぎわ外野芝生席に入ったか、ポールを巻いてファウルか。三塁塁審は、右腕をまわして、3点ホームランとなった。場内騒然。6分間の抗議はくつがえらない。大谷はその後、変化球を乱し、直球を狙い打ちされ、8回3分の2で降板。今大会のスーパーヒーローの夏は終わった。  

 とつぜん、喚声が沸いた。大阪桐蔭が3塁打を放った。スカウトマンたちが目を凝らす。

「ああこれ、2年生や。ええねえ」

「ピッチャーに、大谷のようなスピードは求めん、140キロ出せればええんです。それより、いかに狙ったとこにボールを持っていくかという技術の高さと、感謝の気持ちや正しい返事ができる人間性が大事です。技術のない者はキャンプで終わる。技術を持ち、自分の欠点に気づき、教えられずに自己矯正できる者が一軍に行けるんです」

 新人の世界、大化けするのは、20人にひとり。そこそこレギュラーに残れるのは2~3人。あとは女に溺れて消滅する、という。そして皆、同じ壁に当たる。子どものころからエースで4番だった者がキャンプにごろごろ集まって来る。初めて、一軍選手の間近で投げる。力んで、バランスを崩す。そのまま自分の力を出しきれず、やがて、「オレはもうええわ」「もう無理」と口走って、十中八九、女に走る。

「そりゃ、多い多い、女に行くのが。それまで野球ばっかりの高校生が急に大人の世界に入って。その壁を乗り越えさせるのも、高校時代から見ている私らスカウトマンの大事な役目なんです」  

※週刊ポスト2012年8月31日号

トピックス

1年ほど前に、会社役員を務める元夫と離婚していたことを明かした
《ロックシンガー・相川七瀬 年上夫との離婚明かす》個人事務所役員の年上夫との別居生活1年「家族でいるために」昨夏に自ら離婚届を提出
NEWSポストセブン
“高市潰し”を狙っているように思える動きも(時事通信フォト)
《前代未聞の自民党総裁選》公明党や野党も“露骨な介入”「高市早苗総裁では連立は組めない」と“拒否権”をちらつかせる異例の事態に
週刊ポスト
『あんぱん』“豪ちゃん”役の細田佳央太(写真提供/NHK)
『あんぱん』“豪ちゃん”役・細田佳央太が明かす河合優実への絶対的な信頼 「蘭子さんには前を向いて自分の幸せを第一にしてほしい。豪もきっとそう思ったはず」
週刊ポスト
韓国アイドルグループ・aespaのメンバー、WINTERのボディーガードが話題に(時事通信フォト)
《NYファッションショーが騒然》aespa・ウィンターの後ろにピッタリ…ボディーガードと誤解された“ハリウッド俳優風のオトコ”の「正体」
NEWSポストセブン
「第65回海外日系人大会」に出席された秋篠宮ご夫妻(2025年9月17日、撮影/五十嵐美弥)
《パールで華やかさも》紀子さま、色とデザインで秋を“演出”するワンピースをお召しに 日系人らとご交流
NEWSポストセブン
立場を利用し犯行を行なっていた(本人Xより)
【未成年アイドルにわいせつ行為】〈メンバーがみんなから愛されてて嬉しい〉芸能プロデューサー・鳥丸寛士容疑者の蛮行「“写真撮影”と偽ってホテルに呼び出し」
NEWSポストセブン
佳子さまを撮影した動画がXで話題になっている(時事通信フォト)
《佳子さまどアップ動画が話題》「『まぶしい』とか『神々しい』という印象」撮影者が振り返る “お声がけの衝撃”「手を伸ばせば届く距離」
NEWSポストセブン
個別指導塾「スクールIE」の元教室長・石田親一容疑者(左/共同通信、右/公式サイトより※現在は削除済み)
《“やる気スイッチ”塾でわいせつ行為》「バカ息子です」母親が明かした、3浪、大学中退、27歳で婚約破棄…わいせつ塾講師(45)が味わった“大きな挫折
NEWSポストセブン
交際が報じられた赤西仁と広瀬アリス
《赤西仁と広瀬アリスの海外デートを目撃》黒木メイサと5年間暮らした「ハワイ」で過ごす2人の“本気度”
NEWSポストセブン
個別指導塾「スクールIE」の元教室長・石田親一容疑者(公式サイトより※現在は削除済み)
《15歳女子生徒にわいせつ》「普段から仲いいからやっちゃった」「エスカレートした」“やる気スイッチ”塾講師・石田親一容疑者が母親にしていた“トンデモ言い訳”
NEWSポストセブン
秋場所
「こんなことは初めてです…」秋場所の西花道に「溜席の着物美人」が登場! 薄手の着物になった理由は厳しい暑さと本人が明かす「汗が止まりませんでした」
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」本日発売! 「高市総理を阻止せよ」イカサマ総裁選の裏ほか
「週刊ポスト」本日発売! 「高市総理を阻止せよ」イカサマ総裁選の裏ほか
NEWSポストセブン