国内

米追従の日本人は“幸福な奴隷”メディアリテラシー獲得重要

 尖閣諸島問題に端を発した「反日デモ」が中国全土で繰り広げられる中、民主・自民両党の党首選では、「毅然とした態度を取る」(野田佳彦・首相)、「中国には国際社会の一員としての資格がない」(安倍晋三・自民党新総裁)など、中国に対する厳しい発言を各候補が繰り返した。

 それは当然である。しかし、その勇ましい論戦に耳を傾けた人にはこんな思いを持った人が少なからずいたのではないか。「なぜ、誰もアメリカにはもの申さないのか」――と。

 オスプレイ配備、TPP参加問題などで「外圧」を強める米国には、誰一人として批判的な発言を口にしない。だから、いくら総理大臣や“次期総理大臣”が「外国にモノを言える政治家」をアピールしても、そこには虚しさがつきまとう。

 新刊『アメリカに潰された政治家たち』(小学館刊)で、現政権を「戦後最大の対米追随」と喝破した孫崎享氏と、早くから「アメリカの対日要求圧力」問題を看破してきたノンフィクション作家の関岡英之氏が語り合った。

孫崎:TPP絡みで恐ろしいと思ったのは、今年の5月に起きたある事件です。在日中国大使館の李春光・元一等書記官がスパイ活動を行なっていた疑いがあるとして報じられました。その対象が鹿野道彦・農水相(当時)で、その後の内閣改造で農水相を辞任しました。

 農水省にどんな国家機密があるのか知りませんが(苦笑)、鹿野農水相はTPP加盟に反対でした。野田首相と米国にとって邪魔な存在だったのです。後任にはJAと関係が強い郡司彰議員が就きましたが、就任後、野田首相の方針に従うと宣言しています。

関岡:あのスパイ事件は発覚したタイミングからして政治的背景が濃厚です。孫崎さんは岸信介も田中角栄も米国の工作で潰されたと述べられていますが、細川護熙首相の唐突な辞任劇はどう見ていますか。

孫崎:細川氏は安全保障で脱アメリカを図り、「成熟した大人の関係」を築くと表現した。彼が作成させた「樋口レポート」は、国連を中心とし、日米安保はその次としていました。

関岡:米国は自主自立派を必ず潰しにくるわけですね。

孫崎:その通りです。細川氏の著書『内訟録 細川護熙総理大臣日記』(日経新聞出版)は、日付からなにから詳細に書かれているのですが、なぜか日米関係の話は一切書かれていない。武村正義・官房長官を外したところから細川政権は崩壊したわけですが、細川氏は訪米中に「武村を外せ」と米国側にいわれ、細川氏から相談を受けた小池百合子氏が自分のブログで書いたことで明らかになった。

 ですが、その経緯について、細川氏は全く触れていない。結局、彼は自分の政権がなぜ倒れたのかという一番大切なところを書いていないんです。「書けない理由」があるんだろうと思います。

関岡:最近、民主党から日本維新の会に移った政治家に、松野頼久・衆議院議員がいます。彼は細川氏の元秘書で、熊本1区を受け継いだわけですが、細川首相時代にはクリントンとの日米首脳会談にも恐らく同行しただろうし、細川氏から墓まで持って行く話を聞かされていたかもしれない。松野氏はその後、鳩山由紀夫氏の側近となり、鳩山政権の官房副長官として常に鳩山氏に寄り添っていた。

 細川、鳩山という自主自立を目指して挫折した政治家の最側近だった松野氏が、日米同盟基軸、TPP参加を掲げる橋下徹氏の日本維新の会に移った。日米関係の深淵を見て絶望したのか、それとも何か深い思惑があるのか……。実に興味深い動きです。

孫崎:細川、鳩山から橋下に移るというのは、思想的にはあり得ないですね。

関岡:松野氏の祖父は松野鶴平(元参院議長)で、元祖・対米追随派の吉田茂元首相の側近、父親の松野頼三氏は小泉純一郎元首相の後見人でしたが、血筋が蘇ったのでしょうか(笑い)。

 それにしても、自主路線の政治家が次々に潰され、対米追随一辺倒になっていくことに怒りの声があがらない。日本人はハッピースレイブ(幸福な奴隷)になってしまったのでしょうか。

孫崎:歴史学者のガヴァン・マコーマック(豪州国立大学名誉教授)と対談した際、彼は「これだけ隷属し、その隷属を自ら望む日本は、世界史上でも稀な国だ」といっていました。

――民主党にも自民党にも自主派がほとんどいなくなってしまったいま、現状をどう打破すればいいのでしょうか。

孫崎:まずは事実を知ることでしょうね。テレビや新聞などは一方的な情報しか流さないので、インターネットなどを駆使してどこに真実があるのか自ら努力して探していく。真実を共有できれば、日本国民は可能性を持っているのではないかと思っています。

関岡:いまだにマスコミ報道やワイドショーのコメンテーターの片言隻句を鵜呑みにして投票してしまう人は決して少なくない。真実に迫るには、まずメディアリテラシーを研ぎ澄ませることが肝要だと思います。

※週刊ポスト2012年10月12日号

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