多発する反日暴動を受けて日本人が中国大陸から引き揚げ始めた。
日系企業は社員やその家族を続々と帰国させている。中国のバラエティ番組で活躍し、当地で最も有名な日本人お笑い芸人のねんど大介氏も帰国せざるを得なかったひとりだ。
「当局からテレビ局に“日本人を出すな”とお達しが出て、8月中旬以降、20件以上のスケジュールがキャンセルになった。親しい中国人の友人に家から出るなと忠告されたので危険を感じて帰国した。上海のマンションの家賃は3か月分払っておいたけど、年内には戻れそうにない……」
中国はアメリカに次いで2番目に在留日本人が多い国。外務省によるとその数は約14万人で、無届けや不法滞在者を合わせると、15万人を超すと見られる。もしそのすべてが帰国することになればどうなるか。
実際の就労者数は8万人ほどだが(それ以外は不就労の学生や家族)、その多くは日系企業の会社員で、帰国しても仕事がないわけではない。ただし、中国を中心に働いていた前出のねんど氏のような自営業者や現地採用組が一斉に職を失えば、日本国内の失業率が一時的に上がることも懸念される。
さらに問題なのはその撤退の方法だ。今後、尖閣諸島を巡ってさらに緊張が高まると、もっと激しいデモや暴動が起こることも想定される。収入を絶たれれば、自力での帰国が困難になる邦人も出てくるだろう。
昨年、反政府デモが拡大するエジプトで足止めを食らった邦人500人を民間チャーター機で救出したことは記憶に新しい。しかし、中国の場合は規模が違いすぎる。
「中国は広大です。6000人以上の邦人を抱える広州周辺の日本人村は工場地帯にあり、中には空港から車で3時間かかる場所もある。幹線道路がデモ隊に封鎖されるケースも考えられ、その場合、救出は非常に難しい」(広州在住のジャーナリスト)
※週刊ポスト2012年10月12日号