スポーツ

野村克也氏 「ONと同じ時代に生きてつくづく不幸だった」

 10月24日、野村克也氏は新著『オレとO・N』(小学館)を上梓した。長嶋茂雄と王貞治、両氏との因縁や名勝負を軸に、プロ野球がたどってきた歴史をひもときながら、独自の野球観を語るファン必読の好著である。「長嶋茂雄氏の攻略法は最後まで分からなかった」と語る野村氏。ではもう1人のライバル・王貞治氏の攻略法は?

 * * *
 私は、打者を考える時(すべての打者は変化球への対応をテーマとしている)、大きく4タイプに分類する。ストレートを待ちながら変化球に対応するのがA型。内か外かコースを決めて対応するB型、C型はレフト、ライトと打つ方向を決めて備え、球種にヤマを張るのがD型だ。

 分類では王も長嶋と同様、A型だ。大きく右足を上げる一本足打法ではいわれているほどインコースをうまく打てない。だから内角のボールを内側にスライドさせ食い込ませれば、ストレート待ちの王は必ず振ってきてファウルになる。私は捕手として、そうやって王を追い込むことができた。

 ところが、そのファウルが弾丸ライナーだったりすると、インコースを攻めるのがどうしても怖くなる。それでついアウトコースだけの配球をしてしまうのだが、実はそこが、王が一番好きなところ(外角の甘め)なのだ。セのバッテリーは、大体このパターンでやられていた。

 王も長嶋に負けず劣らず天才である。だが、私なら王を抑えることができると確信していたし、実際オールスターで対戦したときはほぼ完璧に封じ込めた。私は、長嶋については不思議とライバルと思っていなかったが、王に対しては強烈な対抗心を抱いていた。

 私は王のおかげで、生涯記録がことごとく2位に甘んじている。私が更新した記録を、次々に王が塗り替えていってしまったからだ。本塁打だけは「一番」であり続けていたが、1974年、通算600号達成でこれもついに抜かれてしまった。翌年5月、後楽園球場で行なわれた日本ハム戦で、私は600号を達成。その記者会見でのセリフが、その後の私の代名詞になった。

「長嶋や王が太陽の下で咲くひまわり。僕は人の見ていないところでひっそりと咲く月見草みたいなもの。そういう花があってもいいと思ってきた」

 しかしこの練りに練った談話でさえ、スポーツ紙の一面を飾ることはなかった。翌日の各紙の一面が伝えていたのは、「長嶋新監督率いる巨人が球団史上初の二けた借金を背負った」ことだった。ONと同じ時代に生きた私は、この意味ではつくづく不幸だったと思う。

※週刊ポスト2012年11月9日号

関連記事

トピックス

『徹子の部屋』に月そ出演した藤井風(右・Xより)
《急接近》黒柳徹子が歌手・藤井風を招待した“行きつけ高級イタリアン”「40年交際したフランス人ピアニストとの共通点」
NEWSポストセブン
世界的アスリートを狙った強盗事件が相次いでいる(時事通信フォト)
《イチロー氏も自宅侵入被害、弓子夫人が危機一髪》妻の真美子さんを強盗から守りたい…「自宅で撮った写真」に見える大谷翔平の“徹底的な”SNS危機管理と自宅警備体制
NEWSポストセブン
鳥取県を訪問された佳子さま(2025年9月13日、撮影/JMPA)
佳子さま、鳥取県ご訪問でピンクコーデをご披露 2000円の「七宝焼イヤリング」からうかがえる“お気持ち”
NEWSポストセブン
長崎県へ訪問された天皇ご一家(2025年9月12日、撮影/JMPA)
《長崎ご訪問》雅子さまと愛子さまの“母娘リンクコーデ” パイピングジャケットやペールブルーのセットアップに共通点もおふたりが見せた着こなしの“違い”
NEWSポストセブン
永野芽郁のマネージャーが電撃退社していた
《坂口健太郎との熱愛過去》25歳の永野芽郁が男性の共演者を“お兄ちゃん”と呼んできたリアルな事情
NEWSポストセブン
ウクライナ出身の女性イリーナ・ザルツカさん(23)がナイフで切りつけられて亡くなった(Instagramより)
《監視カメラが捉えた残忍な犯行》「刺された後、手で顔を覆い倒れた」戦火から逃れたウクライナ女性(23)米・無差別刺殺事件、トランプ大統領は「死刑以外の選択肢はない」
NEWSポストセブン
国民に笑いを届け続けた稀代のコント師・志村けんさん(共同通信)
《恋人との密会や空き巣被害も》「売物件」となった志村けんさんの3億円豪邸…高級時計や指輪、トロフィーは無造作に置かれていたのに「金庫にあった大切なモノ」
NEWSポストセブン
愛子さまが佳子さまから学ぶ“ファッション哲学”とは(時事通信フォト)
《淡いピンクがイメージカラー》「オシャレになった」「洗練されていく」と評判の愛子さま、佳子さまから学ぶ“ファッション哲学”
NEWSポストセブン
年下の新恋人ができたという女優の遠野なぎこ
《部屋のカーテンはそのまま》女優・遠野なぎこさん急死から2カ月、生前愛用していた携帯電話に連絡すると…「ポストに届き続ける郵便物」自宅マンションの現在
NEWSポストセブン
背中にびっしりとタトゥーが施された犬が中国で物議に(FB,REDより)
《犬の背中にびっしりと龍のタトゥー》中国で“タトゥー犬”が大炎上、飼い主は「麻酔なしで彫った」「こいつは痛みを感じないんだよ」と豪語
NEWSポストセブン
(インスタグラムより)
《“1日で100人と寝る”チャレンジで物議》イギリス人インフルエンサー女性(24)の両親が現地メディアで涙の激白「育て方を間違ったんじゃないか」
NEWSポストセブン
藤澤五月さん(時事通信フォト)
《五輪出場消滅したロコ・ソラーレの今後》藤澤五月は「次のことをゆっくり考える」ライフステージが変化…メンバーに突きつけられた4年後への高いハードル
NEWSポストセブン