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中国の新最高指導部 改革派書記は「極右」と見なされ外された

 新たに船出する中国の最高指導メンバーをどう見るべきか。中国の情勢に詳しいジャーナリスト・富坂聰氏がレポートする。

 * * *
 2012年11月14日、中国共産党第18回全国代表大会(18大)が閉幕。その翌日、18大で選ばれた新たな中央委員によって行われた第1回中央委員総会(1中総)で新指導部が選出された。

 同日、世界のメディアが競って予測を報じた7人の最高指導メンバーがそろってお披露目を行った。その内訳は習近平(59)、李克強(57)の留任に続き、張徳江(66)、兪正声(67)、劉雲山(65)、張高麗(66)、王岐山(64)というものだった。

 発表を受けて日本のメディアでは、「メンバーの顔触れから何が読み取れるか」が盛んに報じられているが、どの専門家の言葉もいま一つ煮え切らないといった印象だ。

 それもそのはず、手堅いというか無難なというか、ほとんど何のサプライズもない、ベタなメンツだったからだ。習と李は言うまでもないが、副総理である張徳江、王岐山、そして天津書記の張高麗は下馬評通りの手堅い人選で、兪正声も上海書記という立場を考えれば王手のポジションであったからだ。

 残る一つの椅子には広東書記の汪洋が入るのか、それとも劉雲山か。私はこの二人の戦いに注目していた。というよりも汪洋が入るか否かにしか興味がなかった。

 その理由は一つしかない。もはや末期癌患者としての診断を下されたに等しい共産党政権にとって、その病気の進行を遅らすことができるのは汪洋をおいて他にはないと思われたからだ。

 汪洋がこの5年間、広東省の経営を担ってきたのは偶然ではない。広東省は中国で最も新しいことが始まる実験場である。彼はここで政治改革の最前線ともいうべき大胆な改革に挑んできていた。実現はしなかったが市長レベルまで選挙で選ぼうといった目標まで掲げていたのだ。

 改革開放を文革まで引き戻そうとして極左に位置づけられた薄煕来に対して、改革開放を極限まで進めようとした汪洋は極右と考えられた。共産党内ではどちらにも強いアレルギー反応が起きたといわれ、18大が近づくにつれ汪の不人気が伝えられるようになっていたが、人事の結果はまさしくそうした空気を反映したものなのだろう。

 改革の星とされた汪洋が落ち、その代わりに保守的なイデオロギーに彩られた劉雲山が最高指導部に名を連ねたことは、急進的な変化を敬遠する共産党の体質を意味している。

 18大の政治報告で胡錦濤前総書記が「党が滅びるかもしれない」と強い危機感を示したのにもかかわらず、人事は裏腹では新指導部に期待が集まるはずはない。

 もっとも改革派の政治家が最高指導部に一人増えたからといって何かが劇的に変わるほど現在の中国の病状は軽くはない。

 ましてや江沢民派か胡錦濤派かといった話など――本当に江沢民派や胡錦濤派などというものが存在するのだとして――所詮〝コップの中の嵐〟に過ぎない。そんな視点しか持たなければ、今後中国を襲う巨大な変化を見失うことは間違いない。変化の芽は、いまや中南海ではなく国民の中にこそあるのだ。

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