国内

「維新は脱原発を妥協」という新聞報道は言葉遊びだとの指摘

 石原慎太郎・前東京都知事が代表を務める太陽の党と合併した日本維新の会について新聞などでは厳しい評価が多い。しかしそれは言葉遊びにすぎないのではないかとジャーナリストの長谷川幸洋氏は指摘する。以下は長谷川氏の解説だ。

 * * *
 今回の合併について、たとえば朝日新聞は「政策のすりあわせは置き去りにされた。(中略)橋下(徹)氏が繰り返し主張してきた『2030年代までに原発をゼロにする』という文言はおろか『脱原発』の文字すら見あたらない(中略)突然の解散・総選挙に対応しようと急いだためだが、その付け焼き刃ぶりは隠しようがない」(11月18日付)と書いた。

 東京新聞も「橋下氏が、慎重な石原氏に配慮して譲歩し、当たり障りのない表現となった」(19日付)と橋下が妥協したという見立てである。

 はたしてそうか。私は焦点の原発問題について「政策のすりあわせができていない」とか「橋下が妥協した」とは、まったく思わない。むしろ逆である。太陽の党側が「橋下に押し切られた」というのが実態ではないか。

 まず事実関係をみよう。先週、書いたように政治分析は公開文書を読むのが基本である。合意文書は6番目に「新しいエネルギー需給体制の構築」を掲げ、こう記している。原発→【1】ルールの構築(ア)安全基準(イ)安全確認体制(規制委員・規制庁、事業主)(ウ)使用済み核燃料(エ)責任の所在【2】電力市場の自由化。

 ここには、たしかに「原発ゼロ」とか「脱原発」の文字はない。しかし、それは本来、ただのスローガンである。脱原発を目指すなら、どこをどういう風に改め、新たな体制を作っていくのかが問題になる。そうした作業はもちろん法改正や新法制定を伴う。

 そうだとすると、安全基準や安全確認体制作り、電力自由化などで石原、橋下が合意したのはスローガンから一歩踏み出して、政策の中身に踏み込んだと評価できる。それこそがリアルな政策課題であるからだ。

 とりわけ重要なのは使用済み核燃料にも言及した点である。世界を見渡しても、いま使用済み核燃料を半永久的に保存できる場所はない。地震国、日本はなおさらだ。

 日本学術会議が数十年から数百年程度の暫定保管(モラトリアム)を提言したのも、現在の科学水準ではプルトニウムが無害化するまで10万年の安全を保証できず、かつ最終処分地も見つけられないからだ。

 出口なき使用済み核燃料問題に真正面から向き合えば、結論はおのずと明白になる。原発はできるだけ早く止めるしかない。逆に言えば、原発を続けるには使用済み核燃料を処理できるかのような幻想をふりまく以外になかったから、この問題から目をそむけ続けてきたのだ。

 使用済み核燃料を含めて合意が「ルールを構築する」と宣言したのは、新聞が言うように「脱原発をあいまいにした」のではなく「脱原発以外に選択の余地をなくした」と言える。言葉だけのスローガンよりも、推進派に厳しいハードルを設けた形である。

 実際の合併交渉でも、11月上旬の時点で維新側との協議に臨んだ、たちあがれ日本の平沼赳夫代表や園田博之幹事長は「ベタ折れだった」と聞いている。「橋下が妥協した」というのは事実としても違うのではないか。

 新聞はよく「言葉だけでなく具体的な中身を」と政治家に注文する。ところが、今回のように単純な言葉を削って中身を提示すると、今度は「妥協した」という。私に言わせれば、マッチポンプもいいところだ。政策の中身を評価せずに、安易な言葉遊びをしているのは新聞のほうではないか。(文中敬称略)

【プロフィール】
●はせがわ・ゆきひろ:東京新聞・中日新聞論説副主幹。1953年千葉県生まれ。ジョンズ・ホプキンス大学大学院卒。政府税制調査会委員などを歴任し、現在は大阪市人事監察委員会委員長も務める。

※週刊ポスト2012年12月7日号

関連記事

トピックス

小林ひとみ
結婚したのは“事務所の社長”…元セクシー女優・小林ひとみ(62)が直面した“2児の子育て”と“実際の収入”「背に腹は代えられない」仕事と育児を両立した“怒涛の日々” 
NEWSポストセブン
松田聖子のものまねタレント・Seiko
《ステージ4の大腸がん公表》松田聖子のものまねタレント・Seikoが語った「“余命3か月”を過ぎた現在」…「子供がいたらどんなに良かっただろう」と語る“真意”
NEWSポストセブン
今年5月に芸能界を引退した西内まりや
《西内まりやの意外な現在…》芸能界引退に姉の裁判は「関係なかったのに」と惜しむ声 全SNS削除も、年内に目撃されていた「ファッションイベントでの姿」
NEWSポストセブン
(EPA=時事)
《2025の秋篠宮家・佳子さまは“ビジュ重視”》「クッキリ服」「寝顔騒動」…SNSの中心にいつづけた1年間 紀子さまが望む「彼女らしい生き方」とは
NEWSポストセブン
イギリス出身のお騒がせ女性インフルエンサーであるボニー・ブルー(AFP=時事)
《大胆オフショルの金髪美女が小瓶に唾液をたらり…》世界的お騒がせインフルエンサー(26)が来日する可能性は? ついに編み出した“遠隔ファンサ”の手法
NEWSポストセブン
日本各地に残る性器を祀る祭りを巡っている
《セクハラや研究能力の限界を感じたことも…》“性器崇拝” の“奇祭”を60回以上巡った女性研究者が「沼」に再び引きずり込まれるまで
NEWSポストセブン
初公判は9月9日に大阪地裁で開かれた
「全裸で浴槽の中にしゃがみ…」「拒否ったら鼻の骨を折ります」コスプレイヤー・佐藤沙希被告の被害男性が明かした“エグい暴行”「警察が『今しかないよ』と言ってくれて…」
NEWSポストセブン
指名手配中の八田與一容疑者(提供:大分県警)
《ひき逃げ手配犯・八田與一の母を直撃》「警察にはもう話したので…」“アクセルベタ踏み”で2人死傷から3年半、“女手ひとつで一生懸命育てた実母”が記者に語ったこと
NEWSポストセブン
初公判では、証拠取調べにおいて、弁護人はその大半の証拠の取調べに対し不同意としている
《交際相手の乳首と左薬指を切断》「切っても再生するから」「生活保護受けろ」コスプレイヤー・佐藤沙希被告の被害男性が語った“おぞましいほどの恐怖支配”と交際の実態
NEWSポストセブン
国分太一の素顔を知る『ガチンコ!』で共演の武道家・大和龍門氏が激白(左/時事通信フォト)
「あなたは日テレに捨てられたんだよっ!」国分太一の素顔を知る『ガチンコ!』で共演の武道家・大和龍門氏が激白「今の状態で戻っても…」「スパッと見切りを」
NEWSポストセブン
2009年8月6日に世田谷区の自宅で亡くなった大原麗子
《私は絶対にやらない》大原麗子さんが孤独な最期を迎えたベッドルーム「女優だから信念を曲げたくない」金銭苦のなかで断り続けた“意外な仕事” 
NEWSポストセブン
ドラフト1位の大谷に次いでドラフト2位で入団した森本龍弥さん(時事通信)
「二次会には絶対来なかった」大谷翔平に次ぐドラフト2位だった森本龍弥さんが明かす野球人生と“大谷の素顔”…「グラウンドに誰もいなくなってから1人で黙々と練習」
NEWSポストセブン