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沸々と湧く「西郷待望論」 驚くほど今日的な存在と手島龍一氏

 12月16日に衆院選投票日が迫り、日本の新しいリーダーを決める日が近付いている。「週刊ポスト」では各界の識者に日本史上最高のリーダーというテーマで緊急アンケートをとった。そのなかで上位にランクされた西郷隆盛について、外交ジャーナリストの手島龍一氏が解説する。

 * * *
 もう何年も宰相の不作が続いている平成のニッポンでは「西郷待望論」が沸々と湧きおこっている。政治は二流でも経済が一流なら大丈夫――こううそぶいていた当の財界人が「強力な政治なくして経済の飛躍なし」などと言っている昨今である。

 いまや誰しもが国家を束ねる強力な政治指導者を待ち望んでいるように見える。そして政局の鍵を握る第三極の要に「日本維新の会」まで誕生した。彼らもまた明治維新の推進力となった西郷隆盛を新しい指導者像のひとりにだぶらせているのだろう。

 司馬遼太郎は名篇『街道をゆく』の「肥薩のみち」で、西南戦争の激戦地、田原坂を歩きながら明治維新直後の時代の空気についてこう述べている。

「当時、日本中に充満していた反政府気分や野党的勢力(国粋主義や自由民権主義)はことごとく西郷とその麾下一万数千の薩摩人の決起と成功に熱狂的な期待をよせた」

 ところが、この田原坂の決戦で、西郷軍が敗れ去ったことで、これらの野党勢力は拠り所を一挙に失ってしまう。そしてこの敗北が、この国の歴史に類をみないほどの強力な官僚国家を成立させたと断じて、司馬遼太郎は次のように記している。

「西郷の敗北は単に田原坂にとどまらず、こんにちにいたるまで日本の政治に健康で強力な批判勢力を成立せしめない原因をなしているのではないかとさえおもえる」

 司馬遼太郎がこの文章を綴った40年前、官僚国家の弊害に非を鳴らすその筆致はまだどこかためらいがちだった。だが、東日本大震災の復旧に所得税の増税まで課しながら、税金に官僚たちが群がって簒奪する惨状をまのあたりにしたなら、西郷隆盛の敗北を惜しむ気持がさらに募ったことだろう。西郷隆盛はいまのニッポンにとって驚くほど今日的な存在だといっていい。

※週刊ポスト2012年12月21・28日号

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