スポーツ

王・長嶋は天才的だった故に監督哲学がなかったと野村克也氏

 選手・監督時代の苛烈な戦いの経験を『オレとO・N』(小社刊)で明かした野村克也氏が、ライバルだった王貞治、長嶋茂雄への思いと球界の未来について語った。

――野球人として、選手から監督になって見える世界が変わったか。

野村:現役時代の私は、長嶋より王をライバル視していた。しかし、監督となってからは、今度は長嶋を徹底してライバルとみなし、大いに闘志を燃やすようになった。

 ただ、監督としてのON(王・長嶋)に共通するのは、自分が天才的な選手だったために「哲学」がないことだ。名選手必ずしも名監督ならず。一般的にスターだった選手、強打者出身の監督は、派手な攻撃野球を好む。だがこれでは、緻密な野球ができないばかりか、作戦の必要性と重要性がわからない。さらに自分が抜群のパフォーマンスができただけに、皆ができると思ってしまう。

 王に至っては、一本足打法で成功したために、はじめのうちは自分の型をすべてに押し付けようとする欠点があった。指導者に求められるのは相手を見定めることであり、どのような方向に持っていけばいい結果が出るかを導いてやる必要がある。

――次世代の人材育成は日本全体の大きな課題になっている。

野村:親も育ってきた環境も違うし、肉体や骨格も違う。それを猫も杓子も一通りの型にはめたのでは個性を生かすことができない。「学ぶ」というのは「真似る」を語源にしていると言われるが、若手も「教わる」のではなく、「覚える」という意識が必要なのではないか。

――指揮官の人材も不足している。

野村:球界でも最近は能力よりも処世術で監督になるヤツが多い。そのためかどのチームも判で押したような戦い方ばかり。ノーアウトでランナーが出れば必ずバント。決まったタイミングで同じ投手が出てきて終了。こうなれば次の交代は誰、この打者へのサインは何、などと素人が考えても展開が読めるようになる。こうした戦い方を“アホ采配”という(笑)。

 特に「勝利の方程式」という決まり文句が一番気に入らない。勝負事に方程式などあるわけがない。マスコミの責任も大きいが、そんなものがあると考えるから型にはめてしまい、勝負の醍醐味を失わせるのだ。

――一方で、「勝敗」へのこだわりは強い。どんな世界でも勝ち組、負け組と色分けし、ビジネスマンならばカネさえ儲けられれば偉い、と考える傲慢な者もいる。

野村:親の責任が大きいね。甘やかし、礼節を教えていない。野球人も選手として一流である前に、人間として一流であってもらいたい。礼儀、マナーは常識。挨拶もできない者は論外だ。礼に始まって礼に終わる。これは野球に限ったことではないでしょう。特に子供たちが目指すプロ野球選手には、自覚を持った行動をしてもらいたいものだ。

「人間的成長なくして技術的進歩なし」である。

※SAPIO2013年1月号

関連記事

トピックス

(写真/共同通信)
《神戸マンション刺殺》逮捕の“金髪メッシュ男”の危なすぎる正体、大手損害保険会社員・片山恵さん(24)の親族は「見当がまったくつかない」
NEWSポストセブン
列車の冷房送風口下は取り合い(写真提供/イメージマート)
《クーラーの温度設定で意見が真っ二つ》電車内で「寒暖差で体調崩すので弱冷房車」派がいる一方で、”送風口下の取り合い”を続ける汗かき男性は「なぜ”強冷房車”がないのか」と求める
NEWSポストセブン
アメリカの女子プロテニス、サーシャ・ヴィッカリー選手(時事通信フォト)
《大坂なおみとも対戦》米・現役女子プロテニス選手、成人向けSNSで過激コンテンツを販売して海外メディアが騒然…「今まで稼いだ中で一番楽に稼げるお金」
NEWSポストセブン
ジャスティン・ビーバーの“なりすまし”が高級クラブでジャックし出禁となった(X/Instagramより)
《あまりのそっくりぶりに永久出禁》ジャスティン・ビーバー(31)の“なりすまし”が高級クラブを4分27秒ジャックの顛末
NEWSポストセブン
愛用するサメリュック
《『ドッキリGP』で7か国語を披露》“ピュアすぎる”と話題の元フィギュア日本代表・高橋成美の過酷すぎる育成時代「ハードな筋トレで身長は低いまま、生理も26歳までこず」
NEWSポストセブン
「舌出し失神KO勝ち」から42年後の真実(撮影=木村盛綱/AFLO)
【追悼ハルク・ホーガン】無名のミュージシャンが「プロレスラーになりたい」と長州力を訪問 最大の転機となったアントニオ猪木との出会い
週刊ポスト
野生のヒグマの恐怖を対峙したハンターが語った(左の写真はサンプルです)
「奴らは6発撃っても死なない」「猟犬もビクビクと震え上がった」クレームを入れる人が知らない“北海道のヒグマの恐ろしさ”《対峙したハンターが語る熊恐怖体験》
NEWSポストセブン
大谷が購入したハワイの別荘に関する訴訟があった(共同通信)
「オオタニは代理人を盾に…」黒塗りの訴状に記された“大谷翔平ビジネスのリアル”…ハワイ25億円別荘の訴訟騒動、前々からあった“不吉な予兆”
NEWSポストセブン
話題を集めた佳子さま着用の水玉ワンピース(写真/共同通信社)
《夏らしくてとても爽やかとSNSで絶賛》佳子さま“何年も同じ水玉ワンピースを着回し”で体現する「皇室の伝統的な精神」
週刊ポスト
ヒグマの親子のイメージ(時事通信)
《駆除個体は名物熊“岩尾別の母さん”》地元で評判の「大人しいクマ」が人を襲ったワケ「現場は“アリの巣が沢山出来る”ヒヤリハット地点だった」【羅臼岳ヒグマ死亡事故】
NEWSポストセブン
真美子さんが信頼を寄せる大谷翔平の代理人・ネズ・バレロ氏(時事通信)
《“訴訟でモヤモヤ”の真美子さん》スゴ腕代理人・バレロ氏に寄せる“全幅の信頼”「スイートルームにも家族で同伴」【大谷翔平のハワイ別荘訴訟騒動】
NEWSポストセブン
中居正広氏の騒動はどこに帰着するのか
《中居正広氏のトラブル事案はなぜ刑事事件にならないのか》示談内容に「刑事告訴しない」条項が盛り込まれている可能性も 示談破棄なら状況変化も
週刊ポスト