国内

社内英語公用語化は無意味と元マイクロソフト社長成毛眞氏

 会社内で日本人同士の会話でも英語使用を課せられるビジネスマン。英語ができなければ収入にも出世にも響くこのご時世。英語格差に苦しむ日本人はどうすればいいのか。元マイクロソフト日本法人社長の成毛眞氏が解説する。

 * * *
 英語公用語化がいくつかの企業で進められている。楽天、ユニクロのファーストリテイリングに続いて、IT企業のサイバーエージェントが導入するなどベンチャー企業や急成長を遂げた企業に多い。

 楽天が社員に求める英語力の水準はTOEIC(国際コミュニケーション英語能力)のスコアで一般社員が600点、係長クラスが650点、部長クラスが750点で、規定点数に満たないと降格、あるいは給料の1割減となる。

 大手企業の中にも、社員の採用条件をTOEICで600点以上、高いところでは850点以上としているところがある。

 そうした風潮からか、英語能力が高い人は収入が高くなるという幻想があるようだ。だが、英語ができるから収入が高いのではない。収入の高い人に英語能力の高い人が多いにすぎない。そういう人は他のスキルでも優れている。法律の知識もあり、マネージメント能力も高い。英語は10持っている能力の1つに過ぎないのだ。

 私は社内英語公用語化などまったく無意味だと思っている。幹部社員ならまだしも一般社員にまで社内で英語を使わせることになんの意味があるのか。おそらく海外赴任を経験しないまま会社人生を終える社員が大半である。そんな社員に社内で英語を義務づけるとはまるで拷問のような企画だ。

 日本人で英語を本当に必要とする人は、たった1割しかいない。

 この1割という数字は、海外在留邦人、外資系企業の従業員、大型ホテルや外国人向け旅館の女将、新幹線の車掌など英語を必要とする立場、職業の総数からはじき出したものだ。残りの9割は勉強しても使う場がない。

 にもかかわらず少なからぬ大企業が採用条件にTOEICのスコアを課している。入社後、日常的に英語を使うことはほとんどない。TOEICのスコアは特権階級の意識を満足させるために存在しているようなものだ。

 採用する側は「うちの会社は、これだけ高いレベルの社員を求めているんだ」と誇示し、採用された側は「難関を潜り抜けて就職できた」と満足する。英語ができても仕事ができるわけでもないし、コミュニケーション能力が高いわけでもない。しかし、英語の格差がそのまま就職や出世に影響するというおかしなことになっている。

 企業とは勝手なもので、就職氷河期で買い手市場の今はどんな条件でも付けたがる。英語で騒いでいるのもそのためだ。しかし、あと5年もすればガラリと方向転換するだろう。団塊の世代がごっそり退職して人材が足りなくなるからだ。すると経営者は「英語なんてできなくていい。仕事しながら覚えろ」と言い出す。その時になって慌てて英語以外のスキルを身につけようとしても手遅れである。

 だから、英語を必要としない9割の人は、目先の査定に怯えて企業のいいなりになり、まじめに英語を勉強する必要はない。現在の英語格差による多少の不便は甘んじて受け入れ、むしろ今はまだ必要とされていない国際会計や国際法でも学んだほうが必ず役に立つときが来る。

※SAPIO2013年2月号


関連キーワード

トピックス

全米の注目を集めたドジャース・山本由伸と、愛犬のカルロス(左/時事通信フォト、右/Instagramより)
《ハイブラ好きとのギャップ》山本由伸の母・由美さん思いな素顔…愛犬・カルロスを「シェルターで一緒に購入」 大阪時代は2人で庶民派焼肉へ…「イライラしている姿を見たことがない “純粋”な人柄とは
NEWSポストセブン
各地でクマの被害が相次いでいる
JR東日本はクマとの衝突で71件の輸送障害 保線作業員はクマ撃退スプレーを携行、出没状況を踏まえて忌避剤を散布 貨物列車と衝突すれば首都圏の生活に大きな影響出るか
NEWSポストセブン
真美子さんの帰国予定は(時事通信フォト)
《年末か来春か…大谷翔平の帰国タイミング予測》真美子さんを日本で待つ「大切な存在」、WBCで久々の帰省の可能性も 
NEWSポストセブン
(写真/イメージマート)
《全国で被害多発》クマ騒動とコロナ騒動の共通点 “新しい恐怖”にどう立ち向かえばいいのか【石原壮一郎氏が解説】
NEWSポストセブン
シェントーン寺院を訪問された天皇皇后両陛下の長女・愛子さま(2025年11月21日、撮影/横田紋子)
《ラオスご訪問で“お似合い”と絶賛の声》「すてきで何回もみちゃう」愛子さま、メンズライクなパンツスーツから一転 “定番色”ピンクの民族衣装をお召しに
NEWSポストセブン
ことし“冬眠しないクマ”は増えるのか? 熊研究の権威・坪田敏男教授が語る“リアルなクマ分析”「エサが足りずイライラ状態になっている」
ことし“冬眠しないクマ”は増えるのか? 熊研究の権威・坪田敏男教授が語る“リアルなクマ分析”「エサが足りずイライラ状態になっている」
NEWSポストセブン
“ポケットイン”で話題になった劉勁松アジア局長(時事通信フォト)
“両手ポケットイン”中国外交官が「ニコニコ笑顔」で「握手のため自ら手を差し伸べた」“意外な相手”とは【日中局長会議の動画がアジアで波紋】
NEWSポストセブン
11月10日、金屏風の前で婚約会見を行った歌舞伎俳優の中村橋之助と元乃木坂46で女優の能條愛未
《中村橋之助&能條愛未が歌舞伎界で12年9か月ぶりの金屏風会見》三田寛子、藤原紀香、前田愛…一家を支える完璧で最強な“梨園の妻”たち
女性セブン
土曜プレミアムで放送される映画『テルマエ・ロマエ』
《一連の騒動の影響は?》フジテレビ特番枠『土曜プレミアム』に異変 かつての映画枠『ゴールデン洋画劇場』に回帰か、それとも苦渋の選択か 
NEWSポストセブン
インドネシア人のレインハルト・シナガ受刑者(グレーター・マンチェスター警察HPより)
「2年間で136人の被害者」「犯行中の映像が3TB押収」イギリス史上最悪の“レイプ犯”、 地獄の刑務所生活で暴力に遭い「本国送還」求める【殺人以外で異例の“終身刑”】
NEWSポストセブン
“マエケン”こと前田健太投手(Instagramより)
“関東球団は諦めた”去就が注目される前田健太投手が“心変わり”か…元女子アナ妻との「家族愛」と「活躍の機会」の狭間で
NEWSポストセブン
ラオスを公式訪問されている天皇皇后両陛下の長女・愛子さまラオス訪問(2025年11月18日、撮影/横田紋子)
《何もかもが美しく素晴らしい》愛子さま、ラオスでの晩餐会で魅せた着物姿に上がる絶賛の声 「菊」「橘」など縁起の良い柄で示された“親善”のお気持ち
NEWSポストセブン