国内

ネット出自の草の根保守層にとって安倍首相は“強さ”の象徴

 衆議院選挙戦最終日の12月15日、秋葉原で行われた安倍晋三・自民党総裁の街頭演説にはおよそ3000人が集まった。日の丸を手にした群衆で埋め尽くされた駅前ロータリーには、どのような人間が集まり、現場では何が起きていたのか? ジャーナリストの安田浩一氏が現場の状況をリポートする。

 * * *
 午後7時半。安倍総裁が盟友の麻生太郎氏とともに姿を現わすと、駅頭のボルテージは一気に高まった。日の丸の旗はなお一層激しく波打ち、電飾を施した「アイラブ自民党」のプラカードが上下に揺れる。まるでアイドル歌手のコンサート会場だ。小林よしのり氏が言うところの「紅衛兵」の群れに見えないこともない。

 街宣車の上で、安倍総裁は人差し指を左右に何度も突き出しながら、「最後のお願い」に熱弁をふるった。景気回復、教育改革、そして外交。民主党ではなし得なかった政策を必ず実現するのだと訴える。なかでも群衆を沸かせたのは、教育と外交に関する主張だった。

「日本の教育を歪めているのは日教組です!」
「竹島に外国の政治家が上陸した。自民党時代にはあり得なかったことです!」

 規律のある強い日本を目指すそれを示唆する言葉が安倍総裁の口から漏れるたびに、割れんばかりの拍手と歓声がビル街に反響する。
「そうだあ!」 「売国奴を一掃しろ!」
 文言だけを拾い上げれば、日夜、ネット言論で当たり前のように流通しているものである。しかし、絶叫に近い生身の声を伴うと、それはさらに熱を帯びて耳に突き刺さる。これがいまの日本の「気分」なのだなと、私は受け止めるしかなかった。

 この場にいる人々が、必ずしも日本を代表しているわけではない。だが、マスコミへの怨嗟と、安倍総裁に対する熱狂的な求愛は、間違いなく日本を覆う不安と不満を突破したいと願う「気分」を表わしている。

 マスコミに、民主党に、そして中国や韓国、北朝鮮に、経済も国土も自信も奪われたと感じる人々にとって、返り咲き「安倍首相」は奪われたものを取り返してくれるであろう救世主なのだ。私はこのとき、自民党の圧勝を確信し、そしてその通りとなった。

 私が取材で知り得たネット出自の草の根保守層は、その多くが安倍総裁を「待ちに待った本当の保守」だと持ち上げた。尖閣に公務員を常駐させると言い、「国防軍」の設置に言及し、日教組の影響力を弱めると宣言する安倍総裁は、「弱った日本」を立ち直らせる「強さ」の象徴である。

 安倍総裁を熱狂的に後押ししたネット言論を見よ。明日にでも武力で中国や韓国を駆逐できそうな「期待」でいっぱいだ。「在特会」(在日特権を許さない市民の会)などのデモに参加する30代の会社員などは、「この勢いで売国的言論など取り締まったほうがいい」と気勢を上げる。人権擁護法案に反対してきた彼にして、ここまでのぼせているのだ。人間、弱った時ほどシンプルで力強い言葉に鼓舞される。

 だが熱狂と興奮に満ち溢れたネット言論は、いつまでその体温を維持できるのか疑問視する向きも多い。自民党大勝が「安倍に批判的な穏健派議員も大量に生み出した」(政治部記者)こともまた、忘れてはならない。

※SAPIO2013年2月号

関連記事

トピックス

若手俳優として活躍していた清水尋也(時事通信フォト)
「もしあのまま制作していたら…」俳優・清水尋也が出演していた「Honda高級車CM」が逮捕前にお蔵入り…企業が明かした“制作中止の理由”《大麻所持で執行猶予付き有罪判決》
NEWSポストセブン
「正しい保守のあり方」「政権の右傾化への憂慮」などについて語った前外相。岩屋毅氏
「高市首相は中国の誤解を解くために説明すべき」「右傾化すれば政権を問わずアラートを出す」前外相・岩屋毅氏がピシャリ《“存立危機事態”発言を中学生記者が直撃》
NEWSポストセブン
3児の母となった加藤あい(43)
3児の母となった加藤あいが語る「母親として強くなってきた」 楽観的に子育てを楽しむ姿勢と「好奇心を大切にしてほしい」の思い
NEWSポストセブン
「戦後80年 戦争と子どもたち」を鑑賞された秋篠宮ご夫妻と佳子さま、悠仁さま(2025年12月26日、時事通信フォト)
《天皇ご一家との違いも》秋篠宮ご一家のモノトーンコーデ ストライプ柄ネクタイ&シルバー系アクセ、佳子さまは黒バッグで引き締め
NEWSポストセブン
過去にも”ストーカー殺人未遂”で逮捕されていた谷本将志容疑者(35)。判決文にはその衝撃の犯行内容が記されていた(共同通信)
神戸ストーカー刺殺“金髪メッシュ男” 谷本将志被告が起訴、「娘がいない日常に慣れることはありません」被害者の両親が明かした“癒えぬ悲しみ”
NEWSポストセブン
ハリウッド進出を果たした水野美紀(時事通信フォト)
《バッキバキに仕上がった肉体》女優・水野美紀(51)が血生臭く殴り合う「母親ファイター」熱演し悲願のハリウッドデビュー、娘を同伴し現場で見せた“母の顔” 
NEWSポストセブン
指定暴力団六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)
《六代目山口組の抗争相手が沈黙を破る》神戸山口組、絆會、池田組が2026年も「強硬姿勢」 警察も警戒再強化へ
NEWSポストセブン
木瀬親方
木瀬親方が弟子の暴力問題の「2階級降格」で理事選への出馬が絶望的に 出羽海一門は候補者調整遅れていたが、元大関・栃東の玉ノ井親方が理事の有力候補に
NEWSポストセブン
和歌山県警(左、時事通信)幹部がソープランド「エンペラー」(右)を無料タカりか
《和歌山県警元幹部がソープ無料タカり》「身長155、バスト85以下の細身さんは余ってませんか?」摘発ちらつかせ執拗にLINE…摘発された経営者が怒りの告発「『いつでもあげられるからね』と脅された」
NEWSポストセブン
結婚を発表した趣里と母親の伊藤蘭
《趣里と三山凌輝の子供にも言及》「アカチャンホンポに行きました…」伊藤蘭がディナーショーで明かした母娘の現在「私たち夫婦もよりしっかり」
NEWSポストセブン
高石あかりを撮り下ろし&インタビュー
『ばけばけ』ヒロイン・高石あかり・撮り下ろし&インタビュー 「2人がどう結ばれ、『うらめしい。けど、すばらしい日々』を歩いていくのか。最後まで見守っていただけたら嬉しいです!」
週刊ポスト
2021年に裁判資料として公開されたアンドルー王子、ヴァージニア・ジュフリー氏の写真(時事通信フォト)
《恐怖のマッサージルームと隠しカメラ》10代少女らが性的虐待にあった“悪魔の館”、寝室の天井に設置されていた小さなカメラ【エプスタイン事件】
NEWSポストセブン