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原発から10kmの漁師 「漁に出たらいっぺんに元気出るのに」

 ベストセラー『がんばらない』の著者で諏訪中央病院名誉院長の鎌田實氏は、チェルノブイリの子供たちへの医療支援などに取り組むとともに、震災後は被災地をサポートする活動を行っている。その鎌田氏が、2年後の被災地について語る。

 * * *
 東日本大震災からはや2年が経った。僕は震災直後から医療の支援に入ってきたが、肝心の復興は遅々として進んでいない。

 2年目の現地をこの目で見ようと、3月初旬、僕は福島県南相馬市へと向かった。3日間の滞在中、県立相馬高校・放送局(部活)の活動の一環として企画した芝居「今 伝えたいこと(仮)」を見てきた。
 
 この芝居は、放送局の生徒が中心となって脚本を作り、自らの手で演出もした手作りの舞台である。事態は何も収束していない、今も進行中だから、そのニュアンスを(仮)というタイトルに込めたという。
 
 東北の他の被災地に目を移すと、宮城県の南三陸町では、漁師たちの活動が始まっていた。昨年はワカメの生育がよく、高値で売れて、街も元気になったという。しかし、今年は生育が悪く、昨年の価格の半分になってしまったとか。
 
 川の上流の山から、どれだけ栄養分の高いものが流れてくるかによって、ワカメの生育が違ってくるのだそうだ。山も陸もきれいにしておかないと、海が豊かにならないと改めて分かったという。
 
 カキの養殖は、処理工場を建設しないことには、なかなか再開できない。しかし住民の話し合いがまとまらず、共同で仕事をするのが難しい。再開への壁にぶつかっている地域も多いと聞く。
 
 漁業の状況もまだ厳しいが、それでも相馬市の漁師たちは、宮城や岩手の漁師たちを羨ましがっている。

 「俺たちは、漁ができない。試験操業だけだ」──精神的に参っている。補償よりも何よりも、漁師たちは働く場がほしいのだ。
 
 原発から10キロほどの浪江町の請戸港の漁師が、うらめしそうな目つきでつぶやいた。

「漁に出られたら、いっぺんに元気が出るのになあ──」
 
 福島の海で、福島の漁師が自由に魚を獲れるようになるにはまだまだ時間がかかりそうである。

※週刊ポスト2013年4月5日号

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