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道州制 地名の変更だけでなく居住する土地の価値直結の問題

 47都道府県を廃止して10程度の州に再編し、地方分権を加速させる「道州制」が、いよいよ実現に動き出した。安倍晋三首相が4月9日、国会で「早期の基本法制定を目指したい」と表明すると、11日には自民・公明両党が今国会への基本法案提出に合意した。

 安倍首相が前のめりになる背景には、かねて道州制推進をリードしてきた橋下徹・大阪市長、そして維新の会との連携を強めたいとの思惑がある。

 橋下氏はそれに呼応するように14日、ツイッターに「道州制改憲を主張したい」と投稿し、自らの悲願である道州制と、安倍首相の悲願である憲法改正をセットで実現させる構想を示した。さらに道州制に関しては、民主党やみんなの党も賛成しており、国会に提出されれば可決する公算は高い。

 この国政の流れに待ったをかけたのが、当事者となる自治体の首長たちだった。4月22日に東京の都道府県会館で行なわれた「全国知事会」で、大多数の知事から猛烈な反発の声が上がったのだ。

「市町村は強制合併を懸念している。道州制は都道府県廃止論であり、反対勢力を作らなければならない」(石井隆一・富山県知事)

「都道府県を潰せば地方分権が実現すると決めつけた議論で危うい。ある意味で県がバカにされている」(井戸敏三・兵庫県知事)

 そのなかで、「導入を前提とした議論を一刻も早く始めるべきだ」と述べた村井嘉浩・宮城県知事をはじめ、賛成派は大阪府、広島県など一部だった。地方分権を進める道州制は、なぜ意見が真っ二つに分かれたのか──。

 その理由は、賛成派が道州制の「州都」に選ばれる地域で、反対派は州都に呑み込まれる残りの地域だからである。道州制の研究を行なっている村上弘・立命館大学法学部教授はこう指摘する。

「道州制では、府県の廃止で州都への『州央集権』が起こる。たとえば、京都、滋賀、兵庫の知事が道州制に消極的なのは、大阪を州都として関西州を作った場合に、各地域が埋没するからです。県域ごとの政策決定ができなくなり、県名も消えて観光にもマイナスになります」

 さらに壊滅的なのが、東京・大阪・名古屋の3大都市圏から離れた地方である。

「多くの県で県庁所在地と県の第2都市との人口差は大きい。たとえば、富山県は富山市42万人に対して高岡市は18万人、愛媛県も松山市52万人に対して今治市が17万人。これは県庁所在地が、行政機能に銀行、マスコミ、企業支店、教育機関などが付随して、特別な地位を持っているためです。道州制では、州都になれなかった県庁所在地は、現在の県の第2都市と同じ程度に諸機能が縮小するので、長期的には人口が半減する恐れもあります」(同前)

 もう一つのポイントが州都からの距離である。現在の都道府県から道州制に移行することで、たとえばこれまで県庁所在地に住んでいた山梨県の甲府市民は、南関東州になった場合に州都の東京からはとてつもない遠距離に位置する州の端っこになってしまう。

 岡田知弘・京都大学大学院経済学研究科教授はいう。

「道州制は地域経済の流れを変えることで、大きな地価変動をもたらすことになる。州都やその周辺は上昇することになっても、州都以外の都市では急激な地価下落に見舞われることにもなりかねません」

 つまり、道州制は自分の住む住所が「○○県」から「○○州」に変わるという名称の変化では済まず、いままさに居住する土地の価値に直結する大問題なのだ。

※週刊ポスト2013年5月17日号

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