国内

日本の「ブラック企業叩き」これで韓国に勝てるかと人事担当

「ブラック企業=悪」という図式は定着しつつあるが、一向にブラック企業がなくなる気配はない。しかし、ブラック企業を悪だと糾弾すれば問題は解決するのだろうか? ジャーナリストの伊藤博敏氏が、この問題について解説する。

 * * *
 企業はすべてブラック企業的なるところからスタートするという現実を忘れてはなるまい。「ブラック企業偏差値」の上位に名を連ねる企業には、オーナーが一代で築いたベンチャー企業が少なくない。そこにあるのは、「人と同じ発想や努力では生き残れない」というシビアな社風であり、「勝ち残り組」のオーナーは社員にも刻苦勉励を求める。

 ベンチャー企業は無理をする。楽天の三木谷浩史社長のようなピカピカのエリートもいるが、東大卒であってもリクルートの故・江副浩正元会長、ライブドアの堀江貴文元社長のように“はぐれ者”も少なくない。

 彼らの頭の中にあるのは、早く会社を大きくしたいという欲望であり、成長を促す資金繰りである。社員の福利厚生や職場環境の整備によって社員の定着率を高めるより、ついてこられる者だけを大事にする発想になりやすい。それを身勝手と言い、ブラック企業と誹る(そしる)のは簡単だ。全肯定はできなくても、その泥臭さの中で這い上がらなければ、安定した業績を上げられる一流企業の域に達しないのもまた事実である。

 批判に晒されるファーストリテイリングについても、「競争力のあるグローバル企業として成長しようと思えば無理せざるを得ない。大志ある若手を求め、彼らを育てようとした結果、要求が高くなり、高い離職率にもなった。『人を大事にする仕組み』はともすれば甘えを生み、競争力を衰えさせる環境になってしまう」(業界関係者)という声もある。  

 日本型雇用慣行に沿って人を大事にした結果、能力はないのに年齢を重ねたというだけで安定した高い収入を得る層が生まれてしまった。一部の大企業には「ウィンドウズ2000=窓際なのに年収2000万円」と揶揄される社員もいる。それで企業の競争力が高まるはずがなかろう。伸び盛りの企業は旧来型企業の側から疎まれる。そこに寄り添う老舗の経済メディアが新興企業批判キャンペーンを展開するブラック批判にはそんな構図も見え隠れする。

 世界のエリート企業はより過酷さを求める。シビアな人事制度で知られる企業の人事担当者が、こう皮肉る。

「韓国の一流企業は、出張したら帰りの飛行機で映画を見たり、酒を飲んだりせず、ひたすら出張リポートを書き、翌朝一番で提出するというやり方を幹部に求めています。そのうえで毎年、成績下位の1割は辞めさせる。そんな国の企業と、ブラック企業叩きをしている国が戦えますか?」

 神経を病むほど社員を追い込む会社は認められない。ただ、レッテル貼りにも意味はないだろう。必要なのは、ブレない規制緩和による雇用の流動性の確保である。ブラック企業の淘汰は、あまりに酷ければ人は寄りつかないという自然の摂理にある程度は委ねてもいいのではないか。

※SAPIO2013年5月号

関連キーワード

関連記事

トピックス

足を止め、取材に答える大野
【活動休止後初!独占告白】大野智、「嵐」再始動に「必ず5人で集まって話をします」、自動車教習所通いには「免許はあともう少しかな」
女性セブン
今年1月から番組に復帰した神田正輝(事務所SNS より)
「本人が絶対話さない病状」激やせ復帰の神田正輝、『旅サラダ』番組存続の今後とスタッフが驚愕した“神田の変化”
NEWSポストセブン
大谷翔平選手(時事通信フォト)と妻・真美子さん(富士通レッドウェーブ公式ブログより)
《水原一平ショック》大谷翔平は「真美子なら安心してボケられる」妻の同級生が明かした「女神様キャラ」な一面
NEWSポストセブン
裏金問題を受けて辞職した宮澤博行・衆院議員
【パパ活辞職】宮澤博行議員、夜の繁華街でキャバクラ嬢に破顔 今井絵理子議員が食べた後の骨をむさぼり食う芸も
NEWSポストセブン
《那須町男女遺体遺棄事件》剛腕経営者だった被害者は近隣店舗と頻繁にトラブル 上野界隈では中国マフィアの影響も
《那須町男女遺体遺棄事件》剛腕経営者だった被害者は近隣店舗と頻繁にトラブル 上野界隈では中国マフィアの影響も
女性セブン
山下智久と赤西仁。赤西は昨年末、離婚も公表した
山下智久が赤西仁らに続いてCM出演へ 元ジャニーズの連続起用に「一括りにされているみたい」とモヤモヤ、過去には“絶交”事件も 
女性セブン
日本、メジャーで活躍した松井秀喜氏(時事通信フォト)
【水原一平騒動も対照的】松井秀喜と全く違う「大谷翔平の生き方」結婚相手・真美子さんの公開や「通訳」をめぐる大きな違い
NEWSポストセブン
海外向けビジネスでは契約書とにらめっこの日々だという
フジ元アナ・秋元優里氏、竹林騒動から6年を経て再婚 現在はビジネス推進局で海外担当、お相手は総合商社の幹部クラス
女性セブン
大谷翔平の伝記絵本から水谷一平氏が消えた(写真/Aflo)
《大谷翔平の伝記絵本》水原一平容疑者の姿が消失、出版社は「協議のうえ修正」 大谷はトラブル再発防止のため“側近再編”を検討中
女性セブン
被害者の宝島龍太郎さん。上野で飲食店などを経営していた
《那須・2遺体》被害者は中国人オーナーが爆増した上野の繁華街で有名人「監禁や暴力は日常」「悪口がトラブルのもと」トラブル相次ぐ上野エリアの今
NEWSポストセブン
交際中のテレ朝斎藤アナとラグビー日本代表姫野選手
《名古屋お泊りデート写真》テレ朝・斎藤ちはるアナが乗り込んだラグビー姫野和樹の愛車助手席「無防備なジャージ姿のお忍び愛」
NEWSポストセブン
運送会社社長の大川さんを殺害した内田洋輔被告
【埼玉・会社社長メッタ刺し事件】「骨折していたのに何度も…」被害者の親友が語った29歳容疑者の事件後の“不可解な動き”
NEWSポストセブン