ビジネス

ヤマト運輸 過疎地で高齢者の「買い物代行」「見守り」展開

 東日本大震災の際、ヤマト運輸のセールスドライバー(宅急便を集荷するドライバー=SD)がいち早く自発的に救援物資の配送を始めたというのはよく知られたエピソードだ。同社の配送網は地域社会に貢献できるポテンシャルを持つ。

 そのヤマトが展開する社会貢献目的のサービスが「まごころ宅急便」だ。過疎地で自治体などと連携しながら高齢者の「買い物代行」と「見守り」を行なう。高齢者が注文した食材などをヤマトが配送し、SDは受け取りの際に安否確認して自治体などに報告する取り組みである。

 このサービスは2008年に盛岡市内のサービスセンター長が、一人暮らしの女性高齢者宅に配達した際の経験がきっかけで生まれた。配達先の女性がいつもより元気のない様子で気になったもののそのまま引き揚げたところ、3日後に孤独死した状態で発見されたのだ。こうした事態を防止できないか、という問題意識がきっかけだった。

 ヤマトHD経営戦略担当マネージャー・引地芳博氏は、「本業である宅急便のネットワークを活かして住民生活をサポートしたい。地域目線のサービスを考え出せるのはあくまで地域に根ざした現場の社員だ」と語る。

「まごころ宅急便」は試行錯誤を経て2010年9月に岩手県和賀郡西和賀町でスタート。中期経営計画(2011~2013年)の基本戦略には「地域社会に密着した生涯生活支援プラットフォームの確立」が盛り込まれ、現在では高知県の自治体などでも同様のサービスが提供されている。岩手では社会福祉協議会と、高知では商工会と連携するなど、地域ごとにカスタマイズしていく。興味深いのはこうした社会貢献事業でも「利益を出す」というヤマトのポリシーである。

「行政から利用者が補助を受けてサービスを提供していますが、『行政の補助なしでも利益が出ること』を条件に事業を設計しています。決して大きく儲けようということではなく、事業としての継続性を保つためです。『補助金がなくなったら事業撤退』では、本当に地域のためになるサービスとは言えませんから」(引地氏)

 数年前の郵政民営化をめぐる議論で、民営化反対派は「過疎地の郵便局がなくなったらお年寄りが困る」と主張した。ヤマトの取り組みはその主張を覆すものと言えよう。

 ヤマト運輸で宅急便事業を創設した2代目社長・小倉昌男は、新事業を軌道に乗せるために行政との衝突を厭わなかった人物として知られる。規制と戦い、行政に任せず、市場競争の中で工夫して利益を出し、社会にも貢献するそのDNAが受け継がれているように見えた。

 ヤマト流の社会貢献には障壁は多い。前例のない取り組みに行政が消極的なこともある。だからこそ“ヤマト魂”の見せどころなのだ。

※SAPIO2013年5月号

関連キーワード

関連記事

トピックス

日高氏が「未成年女性アイドルを深夜に自宅呼び出し」していたことがわかった
《本誌スクープで年内活動辞退》「未成年アイドルを深夜自宅呼び出し」SKY-HIは「猛省しております」と回答していた【各テレビ局も検証を求める声】
NEWSポストセブン
12月3日期間限定のスケートパークでオープニングセレモニーに登場した本田望結
《むっちりサンタ姿で登場》10キロ減量を報告した本田望結、ピッタリ衣装を着用した後にクリスマスディナーを“絶景レストラン”で堪能
NEWSポストセブン
訃報が報じられた、“ジャンボ尾崎”こと尾崎将司さん(時事通信フォト)
笹生優花、原英莉花らを育てたジャンボ尾崎さんが語っていた“成長の鉄則” 「最終目的が大きいほどいいわけでもない」
NEWSポストセブン
実業家の宮崎麗香
《セレブな5児の母・宮崎麗果が1.5億円脱税》「結婚記念日にフェラーリ納車」のインスタ投稿がこっそり削除…「ありのままを発信する責任がある」語っていた“SNSとの向き合い方”
NEWSポストセブン
出席予定だったイベントを次々とキャンセルしている米倉涼子(時事通信フォト)
《米倉涼子が“ガサ入れ”後の沈黙を破る》更新したファンクラブのインスタに“復帰”見込まれる「メッセージ」と「画像」
NEWSポストセブン
訃報が報じられた、“ジャンボ尾崎”こと尾崎将司さん
亡くなったジャンボ尾崎さんが生前語っていた“人生最後に見たい景色” 「オレのことはもういいんだよ…」
NEWSポストセブン
峰竜太(73)(時事通信フォト)
《3か月で長寿番組レギュラー2本が終了》「寂しい」峰竜太、5億円豪邸支えた“恐妻の局回り”「オンエア確認、スタッフの胃袋つかむ差し入れ…」と関係者明かす
NEWSポストセブン
2025年11月には初めての外国公式訪問でラオスに足を運ばれた(JMPA)
《2026年大予測》国内外から高まる「愛子天皇待望論」、女系天皇反対派の急先鋒だった高市首相も実現に向けて「含み」
女性セブン
夫によるサイバーストーキング行為に支配されていた生活を送っていたミカ・ミラーさん(遺族による追悼サイトより)
〈30歳の妻の何も着ていない写真をバラ撒き…〉46歳牧師が「妻へのストーキング行為」で立件 逃げ場のない監視生活の絶望、夫は起訴され裁判へ【米サウスカロライナ】
NEWSポストセブン
シーズンオフを家族で過ごしている大谷翔平(左・時事通信フォト)
《お揃いのグラサンコーデ》大谷翔平と真美子さんがハワイで“ペアルックファミリーデート”、目撃者がSNS投稿「コーヒーを買ってたら…」
NEWSポストセブン
愛子さまのドレスアップ姿が話題に(共同通信社)
《天皇家のクリスマスコーデ》愛子さまがバレエ鑑賞で“圧巻のドレスアップ姿”披露、赤色のリンクコーデに表れた「ご家族のあたたかな絆」
NEWSポストセブン
硫黄島守備隊指揮官の栗林忠道・陸軍大将(写真/AFLO)
《戦後80年特別企画》軍事・歴史のプロ16人が評価した旧日本軍「最高の軍人」ランキング 1位に選出されたのは硫黄島守備隊指揮官の栗林忠道・陸軍大将
週刊ポスト