ライフ

江戸人「武家顔は面長、町人顔は四角」 身分で容姿違った?

梅毒で穴が開いた頭蓋骨

「骨」は何より雄弁に語るのだという。作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏が東京・上野で開かれている注目の展覧会をレポートする。

 * * *
 頭蓋骨に、一本の筋がくっきりと走っています。これは、刀の「試し切り」の痕跡らしい。江戸人の骨の傷。見れば見るほど、痛々しい線です。

 不思議な足の骨も、展示されています。一般的な人骨より関節の数が多いのです。飛脚や駕籠かきなど、激しい肉体的労働に従事していた人の足とか。「ふくらはぎの筋肉が付着する骨に骨増殖が見られ、足の甲の骨には普通は存在しない関節(偽関節)ができています」(展示説明より)。まさしく、「骨は語る」。

 国立科学博物館では6,000個体を超える人骨やミイラを調査・保管してきました。その骨から明らかになってきた科学的知見をもとに、「知っているようで知らない」江戸人の身体、そこから見えてくる暮らしぶりをリアルに紹介する展覧会が今、開催されています。その名も「江戸人展-からだが語る『大江戸』の文化-」。

 頭蓋骨にぽこっと開いた穴。なんと、梅毒によるものらしい。梅毒の原因、微生物スピロヘータが骨を溶かした跡。「大江戸の人たちでは約50%の人がこの感染症にかかっていたという推計もあります」という説明書きには衝撃を覚えました。

 武家の人の顔は、面長で歯並びは悪い。町人の顔は、四角で歯並びはきれい。日常の食べものの固さ・柔らかさによって、顔の形に変化があらわれる。頭蓋骨は饒舌に語る。「身分」と「容姿」との関係が、そこから見えてくる。

 五感を刺激するこんな展示も。鉄漿--お歯黒の匂いを実際に嗅ぐコーナー。江戸時代、結婚した女性が歯を黒く染めた、あのお歯黒の匂いとは……「うっ」。嗅いだとたん、思わずのけぞる。

 鼻が曲がるような、奇妙な匂い。その成分は五倍子粉と鉄漿水。こんな不可思議な匂いの液体を、口の中に塗らざるをえなかった江戸の女たちに、思わず同情。既婚女性が白い歯をわざわざ黒く染めたのは、「二夫にまみえず」という誓いを「形」として見せるためでした。

 にこりと笑えば口もとに黒い歯がのぞく。今の私たちの価値観からすれば、ギョッとするようなグロい化粧。でも、「顔グロ」や「涙袋メイク」、「美魔女」なんていうのも、もしかしたら100年、200年後の人々に発掘された時、皆さん「ギョッ」とされるかもしれませんね。

 頭蓋骨の穴を見たり、奇妙な匂いを嗅いでのけぞったり。遠かった「江戸」時代が、至近距離になる。歴史的知識をお勉強するだけではなく、体感しながら学べる。これぞ、本当の「情報=インフォーム」。情報inform は、フォーム「形」を「イン」、つまり自分の中に取り込むことなのですから。国立科学博物館「江戸人展―からだが語る『大江戸』の文化―」は、親子で一緒に歴史を学びたい人にも超オススメのスポットです。

【会 場】国立科学博物館(台東区上野公園7-20)日本館1 階 企画展示室
【開催期間】平成25 年6 月16 日(日)まで

関連キーワード

関連記事

トピックス

長男・泰介君の誕生日祝い
妻と子供3人を失った警察官・大間圭介さん「『純烈』さんに憧れて…」始めたギター弾き語り「後悔のないように生きたい」考え始めた家族の三回忌【能登半島地震から2年】
NEWSポストセブン
古谷敏氏(左)と藤岡弘、氏による二大ヒーロー夢の初対談
【二大ヒーロー夢の初対談】60周年ウルトラマン&55周年仮面ライダー、古谷敏と藤岡弘、が明かす秘話 「それぞれの生みの親が僕たちへ語りかけてくれた言葉が、ここまで導いてくれた」
週刊ポスト
小林ひとみ
結婚したのは“事務所の社長”…元セクシー女優・小林ひとみ(62)が直面した“2児の子育て”と“実際の収入”「背に腹は代えられない」仕事と育児を両立した“怒涛の日々” 
NEWSポストセブン
松田聖子のものまねタレント・Seiko
《ステージ4の大腸がん公表》松田聖子のものまねタレント・Seikoが語った「“余命3か月”を過ぎた現在」…「子供がいたらどんなに良かっただろう」と語る“真意”
NEWSポストセブン
今年5月に芸能界を引退した西内まりや
《西内まりやの意外な現在…》芸能界引退に姉の裁判は「関係なかったのに」と惜しむ声 全SNS削除も、年内に目撃されていた「ファッションイベントでの姿」
NEWSポストセブン
(EPA=時事)
《2025の秋篠宮家・佳子さまは“ビジュ重視”》「クッキリ服」「寝顔騒動」…SNSの中心にいつづけた1年間 紀子さまが望む「彼女らしい生き方」とは
NEWSポストセブン
イギリス出身のお騒がせ女性インフルエンサーであるボニー・ブルー(AFP=時事)
《大胆オフショルの金髪美女が小瓶に唾液をたらり…》世界的お騒がせインフルエンサー(26)が来日する可能性は? ついに編み出した“遠隔ファンサ”の手法
NEWSポストセブン
日本各地に残る性器を祀る祭りを巡っている
《セクハラや研究能力の限界を感じたことも…》“性器崇拝” の“奇祭”を60回以上巡った女性研究者が「沼」に再び引きずり込まれるまで
NEWSポストセブン
初公判は9月9日に大阪地裁で開かれた
「全裸で浴槽の中にしゃがみ…」「拒否ったら鼻の骨を折ります」コスプレイヤー・佐藤沙希被告の被害男性が明かした“エグい暴行”「警察が『今しかないよ』と言ってくれて…」
NEWSポストセブン
国分太一の素顔を知る『ガチンコ!』で共演の武道家・大和龍門氏が激白(左/時事通信フォト)
「あなたは日テレに捨てられたんだよっ!」国分太一の素顔を知る『ガチンコ!』で共演の武道家・大和龍門氏が激白「今の状態で戻っても…」「スパッと見切りを」
NEWSポストセブン
初公判では、証拠取調べにおいて、弁護人はその大半の証拠の取調べに対し不同意としている
《交際相手の乳首と左薬指を切断》「切っても再生するから」「生活保護受けろ」コスプレイヤー・佐藤沙希被告の被害男性が語った“おぞましいほどの恐怖支配”と交際の実態
NEWSポストセブン
2009年8月6日に世田谷区の自宅で亡くなった大原麗子
《私は絶対にやらない》大原麗子さんが孤独な最期を迎えたベッドルーム「女優だから信念を曲げたくない」金銭苦のなかで断り続けた“意外な仕事” 
NEWSポストセブン