ライフ

薬丸岳氏の新作は14歳で男児を殺めた少年事件がカギとなる話

【著者に訊け】薬丸岳氏・著/『友罪』/集英社/1785円

 少年法の限界を世に問い、ミステリーファンから圧倒的支持を受けたデビュー作『天使のナイフ』を始め、善悪や罪と罰といった簡単には答えの出ないテーマに真っ向から取り組んできた薬丸岳氏の新作『友罪』が、刊行早々話題を集めている。これまでも事件や犯罪をめぐるシーンを被害者側や加害者側など、様々な角度から描いてきた薬丸作品ではあるが、今回のテーマはまさにヒトゴトではない。

〈もし同僚が、世間を震撼させた“あの事件”の少年犯だったと知ってしまったら?〉〈真実を知っても、友達でいられる―─?〉

 薬丸氏はこう語る。

「この『もし』はそれこそ僕が作家になる前からずっと書きたかったテーマでした。友人や同僚や恋人など、僕らは普段いろんな人間関係を結んでいますが、実際は相手が何を考えているのかさえ、よく知らなかったりする。

 その友人や恋人が自分と知り合う前に何かしていても、特に少年事件の場合は知りようがないし、逆に僕が痴漢か何かで逮捕されたら、昨日まで仲良く飲んでいた友達が『いつかやると思った』と言うかもしれない(笑い)。

 それくらい人間の関係や評価というのはあやふやなもので、相手の過去を知った時、人はどこまで身内のままでいられるのかと」

 主人公はジャーナリストを夢見ながら、大学の先輩に紹介された週刊誌のアルバイトをわけあって辞め、川口のステンレス加工会社で働き始めた〈益田純一〉。同じ日に入社した〈鈴木〉とは同じ27歳で寮でも隣部屋だ。無口でどこか得体の知れない鈴木は、なぜか益田には心を開き、次第に寮の仲間とも打ち解けていく。

 きっかけは何気ない一言だった。理由は知らないが隣室で毎晩うなされている彼に、中学時代にイジメを苦に自殺した友人〈桜井学〉の面影を重ねた益田は、ついそのことを話したのだ。すると鈴木は〈もし、ぼくが自殺をしたら……痛みを感じる?〉と思わぬことを言った。学を救えなかった疚しさから〈悲しいにきまってるだろう〉と答えて以来、鈴木は益田を友達と呼んだ。

 本書では、そんな鈴木に好意を寄せる事務員〈藤沢美代子〉や、医療少年院に勤務する精神科医〈白石弥生〉、そして益田の3人の視点から、世に〈黒蛇神事件〉と呼ばれる少年事件の“その後”を描く。奈良県内の住宅地で2人の男児を殺害し、眼球をくり抜いて遺棄した14歳の少年〈青柳健太郎〉は、実は彼を守る矯正局の前から姿を消していた。

 そんな中、女子アナとして活躍する大学時代の恋人〈清美〉から黒蛇神事件に関して意見を求められ、事件を調べ直した益田は、鈴木こそあの少年ではないかと疑い始めるのである。

(構成/橋本紀子)

※週刊ポスト2013年6月7日号

関連記事

トピックス

異物混入が発覚した来来亭(HP/Xより)
《ラーメンにウジ虫混入騒動》体重減少、誹謗中傷、害虫対策の徹底…誠実な店主が吐露する営業再開までの苦難の40日間「『頑張ってね』という言葉すら怖く感じた」
NEWSポストセブン
広島・広陵高校の中井哲之監督と会見を開いた堀正和校長
【「便器なめろ」の暴言も】広陵「暴力問題」で被害生徒の父が初告白「求めるのは中井監督と堀校長の謝罪、再発防止策」 監督の「対外試合がなくなってもいいんか?」発言を否定しない学校側報告書の存在も 広陵は「そうしたやりとりはなかった」と回答
NEWSポストセブン
レッドカーペットに登壇した大谷夫妻(時事通信フォト)
大谷翔平&真美子さん、イチロー&弓子さん、賀来賢人&榮倉奈々、反町隆史&松嶋菜々子…“しあわせな結婚”を実現した理想の有名人夫婦
女性セブン
イギリス出身のインフルエンサーであるボニー・ブルー(本人のインスタグラムより)
《過激すぎる》イギリス公共放送が制作した金髪美女インフルエンサー(26)の密着番組、スポンサーが異例の抗議「自社製品と関連づけられたくない」 
NEWSポストセブン
1990年代、多くの人気バラエティ番組で活躍していたタレント・大東めぐみさん
《交通事故で骨折と顔の左側の歯が挫滅》重傷負ったタレントの大東めぐみ「レギュラーやCM失い仕事ほぼゼロに」後遺症で15年間運転できず
NEWSポストセブン
ポータブルトイレの大切さを発信するYoutuber・わさびちゃん
「そもそもトイレの話がタブー過ぎる」Youtuberわさびちゃんが「トイレ動画」を公開しまくるようになったきっかけ「芸人で恥ずかしいこともないし、夫に提案」
NEWSポストセブン
1990年代、多くの人気バラエティ番組で活躍していたタレント・大東めぐみさん
《事務所が猛反対もプロ野球選手と電撃結婚》元バラドルの大東めぐみ、人気絶頂で東京から大阪へ移住した理由「『最近はテレビに出ないね』とよく言われるのですが…全然平気」
NEWSポストセブン
全国で車中泊をしているわさびちゃん夫婦。夫は元お笑い芸人のピーチキス・けん。
YouTuber・わさびちゃんが「トイレ動画」でバズるまでの紆余曲折「芸人時代に“女”を求められたり、男性芸人から嫉妬されたり…」
NEWSポストセブン
悠仁さまに関心を寄せるのは日本人だけではない(時事通信フォト)
〈悠仁親王の直接の先輩が質問に何でも答えます!〉中国SNSに現れた“筑波大の先輩”名乗る中国人留学生が「投稿全削除」のワケ《中国で炎上》
週刊ポスト
「ビッグダディ」こと林下清志さん(60)
《借金で10年間消息不明の息子も》ビッグダディが明かす“4男5女と三つ子”の子供たちの現在「メイドカフェ店員」「コンビニ店長」「3児の母」番組終了から12年
NEWSポストセブン
女児盗撮の疑いで逮捕の小瀬村史也容疑者(37)。新たに”わいせつ行為”の余罪が明らかになった
「よくタブレットで子どもを撮っていた」不同意わいせつ行為で再逮捕の小瀬村史也容疑者が“盗撮し放題だったワケ” 保護者は「『(被害者は)わからない』の一点張りで…」
NEWSポストセブン
成年式を控える悠仁さまと第1子を出産したばかりの眞子さん(写真・右/JMPA)
眞子さん、悠仁さまの成年式を欠席か いまなお秋篠宮家との断絶は根深く、連絡を取るのは佳子さまのみ “晴れの日に水を差す事態”への懸念も
女性セブン