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JAL再建終え展示館オープンの稲盛和夫氏 存命なのになぜ?

 今でも語り継がれる「経営の神様」といえば、松下電器産業(現パナソニック)創業者の松下幸之助氏が思い浮かぶが、21世紀のカリスマ経営者として後世に名を残すであろう人物が、京セラ名誉会長の稲盛和夫氏(81)だ。

 京都の優良企業である京セラや第二電電(現KDDI)を創業し、どんなに組織が巨大化しようとも10人程度の小集団に収益責任を負わせるという独自の「アメーバ経営」を編み出した。その経営手法は若手経営者のために開かれる私塾「盛和塾」で惜しみなく伝授され、塾メンバーである“信奉者”は8000人を超える。

 経済誌『月刊BOSS』主幹の関慎夫氏が話す。

「稲盛流は社員参加型の理念経営が中心。トップダウンではなく、社員自らが経営に参画して『具体的な目標を立てる』『誰にも負けない努力をする』といった理念に気付いていく。ある意味ではどこでも通用する考え方なんです。でも、京セラ独自の経営哲学だと指摘する人に稲盛さんは反発していた。ダイエーが破綻したときも、『オレならすぐに再建できる』と話していたそうですしね」

 盛和塾には一時期、ソフトバンクの孫正義社長も通っていたというが、稲盛氏は10年ほど前の孫氏の経営スタイルには批判的だったとされる。盛和塾出身の大物継承者が出ない中で、稲盛氏自らに白羽の矢が立ったのが、経営危機に瀕していたJAL(日本航空)の再建である。

 月刊誌などで稲盛氏の取材を度々している経済ジャーナリスト、水島愛一朗氏が振り返る。

「JALの再建を託された2010年は78歳という稲盛さんの年齢もあって、周囲は100人いたら100人が反対したそうです。自身も数年前から80歳を契機に経営の第一線から完全に引退すると宣言していましたしね。

 しかも、稲盛さんはDDI設立時にNTTの独占だった通信市場に殴り込みをかけるなど、既得権益の壁には強い憎悪を抱いていた。それなのに、既得権益の塊である“親方日の丸”のJALの立て直しを要請されたのだから皮肉な話です。だからこそ、これまで以上に自分のやり方にこだわり、手弁当で再建してみせたのです」

 JAL再生には3500億円もの公的資金が使われてV字回復したことに「儲け過ぎだ」との批判も沸き起こったが、何よりも官僚体質だったJAL社員の改革意識を芽生えさせただけでも、稲盛氏が残した功績は大きい。前出の水島氏が今年1月に稲盛氏に会ったときにも「やり残したことは何もない」と清々しい印象を受けたという。

 そんな稲盛氏は、7月2日に京セラ本社(京都市)の敷地内に、これまでの軌跡を展示した「稲盛ライブラリー」を開館させた。展示物の中には稲盛氏が創業時に使っていたカバンやデスク、アイデアを書き留めた手帳など約350点が展示されている。

「存命のうちから自分の功績を紹介するあたり、名誉欲があるのでは?」「松下幸之助歴史館(パナソニックミュージアム)を意識したのでは?」など、一部財界人から揶揄する声も聞こえてくるが、前出の水島氏は否定する。

「今までやってきたことをゆっくり振り返ろうという時間的な余裕ができたことは確か。でも、稲盛さんは自分の功績を手柄としてひけらかすのは好きなタイプではありません。

 かつて出家して仏の『形あるものは必ず滅する』との教えを大事にしています。では何を残すかといったら、精神的な尊さです。『私心を捨てる』の経営理念も名誉欲とは結びつきません。

 ライブラリーの開館は、周囲の人の盛り上げがあってこそ。本人は若い社員や経営者にありのままの自分をさらけ出すのが生き様のため、『しゃあないなぁ』と渋々了解したのだと思いますよ」(水島氏)

 現在、稲盛流の経営哲学は日本だけでなく、ブラジルや中国、韓国などでも絶大なる影響を与えているという。稲盛氏はJALの再建を成し遂げ、悠々自適な隠居生活を送りたいのかもしれないが、まだしばらく休めそうにない。

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