国内

小林よしのり氏 メディアによる皇太子ご夫妻叩きを批判する

 メディアの皇太子・雅子妃バッシングが止まらない。雅子妃が本格的に公務復帰できない現状があるにせよ、「不適格」といった文言が見出しを飾るのは、過去に例のない異常事態である。
 
 いったい、このバッシングをもたらしたものは何なのか。ベストセラー『天皇論』の著者で漫画家の小林よしのり氏が分析する。

 * * *
「不適格」──なぜこれほどの暴言が、平気でまかり通るようになったのか。

 週刊新潮は「『雅子妃』不適格で『悠仁親王』即位への道」(6月20日号)、「『雅子妃』不適格は暗黙の了解『千代田』の迷宮」(6月27日号)と、2週続けて「雅子妃殿下が皇后に不適格との理由から、皇太子殿下は即位後すみやかに退位し、悠仁親王殿下に譲位する」というあり得ないデマを書き飛ばした。宮内庁が2週連続で「事実無根」と抗議する異例の対応となった。

 他の週刊誌もひどい。「雅子妃でよかったのかな──結婚して20年経って国民が思うこと」(週刊現代)、「皇后にふさわしいのは『雅子妃38%』『紀子妃62%』の衝撃」(週刊文春)などと、さも雅子妃殿下より紀子妃殿下のほうが「皇后にふさわしい」かのような論調の記事を載せ、週刊ポストまでが「宮内庁内でも議論噴出!『秋篠宮を摂政に』は是か非か」と題し、バッシングに加担している。

 これらに共通するのは、「雅子妃殿下より紀子妃殿下のほうが好き」「皇太子ご夫妻を天皇皇后にしたくない」といった単なる「好き嫌い」だけで、天皇を決めてしまおうとする感覚だ。

 なんたる思い上がりだろう。国民の側が、まるで選挙で政治家を選ぶようにして、自分たちの好き勝手に天皇を選んでいいと考えている。天皇を総理大臣と同列だとでも思っているのか。

 こうした勘違いを生みだすのは、現行憲法における「国民主権」の感覚が染みついてしまっているからだ。憲法1条は「天皇は、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴」だと定めているが、問題はこの後に続く「この地位は、主権の存する日本国民の総意に基く」という条文だ。

 わしは小学校のころ、「主権の存する日本国民、これを『国民主権』という」との教師の説明を真に受けて、「要するに天皇って我々の意のままか!」と思い込んでしまった。「国民主権」の考え方が暴走して、「天皇より国民のほうが偉い」という錯覚を起こしてしまったのだ。いまの皇太子・雅子妃バッシングは、子供の頃のわしのように、幼稚な考え方だといっていい。

 天皇の地位は、皇統という「血統のみ」で決まるものであって、そこには国民の好き嫌いなど及ぶべくもない。その背景にあるのは、ポピュリズムに対する警戒心だ。もし血統以外の評価が加われば、必ずや皇太子派と秋篠宮派のどちらがいいかといった対立が起こりうる。かつて天皇家の兄弟同士が争った「壬申の乱」の再来である。

 現行の皇室典範は、そうした天皇家同士の争いを避けるために、天皇を継ぐのはまずその長子である皇太子だと明確に定めている。皇太子殿下と秋篠宮殿下の皇位継承順位は、生まれた時点で決まっており、よほどの健康上の理由などがない限り、揺らぐものではない。

 そうした原則があるからこそ、天皇や皇太子は、自ら望んで退位することすら叶わないのだ。よって、「天皇陛下と皇太子・秋篠宮両殿下、さらには宮内庁長官が話し合って、悠仁親王殿下への譲位を決めた」という新潮の記事は「事実無根」と断言できる。

 まして、雅子妃殿下のご病気を条件として皇太子殿下が「天皇として不適格」などという暴論は、見当違いも甚だしい。

 美智子皇后陛下の存在感があまりにも大きいがゆえに誤解が広がっているが、天皇と皇后は決して同列ではない。その証拠に、美智子皇后は天皇陛下がお話しになる際、必ず陛下のほうを向き、深くお辞儀をしたままお聞きになっている。

 あるいは平成4年の山形国体で天皇陛下のお言葉の最中、火のついた発煙筒を投げつけられた際には、皇后がとっさに右手を伸ばして身を挺して天皇陛下をかばった。一般の夫婦関係とは違い、天皇ただひとりが圧倒的に別格なのだ。皇后を理由に天皇が退位するなど、そもそもあり得ない。

 では批判派に聞くが、雅子妃がご病気であることによって、皇太子殿下は公務を欠席されているか。宮中祭祀を疎かにされているか。いや、皇太子殿下は立派にひとりでお務めを果たしているではないか。

 いまの天皇皇后両陛下がなさっている、ご夫婦が常にご一緒という戦後の皇室のスタイルは確かに素晴らしいが、だからといって皇后がいなければ天皇の公務が果たせないわけでは全くない。

 また、野村一成・前東宮大夫は読売新聞6月11日付のインタビューで、皇太子殿下の公務に臨まれる際の熱心なお姿に「大変感銘を受けた」といい、「妃殿下は公務を軽んじているのでは」という批判も「全く当たらない」と断言した。ご病気も時間はかかるにしても、必ず快癒されると確信しているという。

 将来、雅子妃殿下が皇后としてのお務めを果たせるようになる可能性は十分にあるのに、なぜいまのうちから「雅子妃は皇后として不適格、ゆえに皇太子殿下も天皇として不適格」などという倒錯した議論がまかり通るのか。

※週刊ポスト2013年7月19・26日号

関連記事

トピックス

交際が報じられた赤西仁と広瀬アリス
《赤西仁と広瀬アリスの海外デートを目撃》黒木メイサと5年間暮らした「ハワイ」で過ごす2人の“本気度”
NEWSポストセブン
世界選手権東京大会を観戦される佳子さまと悠仁さま(2025年9月16日、写真/時事通信フォト)
《世界陸上観戦でもご着用》佳子さま、お気に入りの水玉ワンピースの着回し術 青ジャケットとの合わせも定番
NEWSポストセブン
秋場所
「こんなことは初めてです…」秋場所の西花道に「溜席の着物美人」が登場! 薄手の着物になった理由は厳しい暑さと本人が明かす「汗が止まりませんでした」
NEWSポストセブン
身長145cmと小柄ながら圧倒的な存在感を放つ岸みゆ
【身長145cmのグラビアスター】#ババババンビ・岸みゆ「白黒プレゼントページでデビュー」から「ファースト写真集重版」までの成功物語
NEWSポストセブン
『徹子の部屋』に月そ出演した藤井風(右・Xより)
《急接近》黒柳徹子が歌手・藤井風を招待した“行きつけ高級イタリアン”「40年交際したフランス人ピアニストとの共通点」
NEWSポストセブン
和紙で作られたイヤリングをお召しに(2025年9月14日、撮影/JMPA)
《スカートは9万9000円》佳子さま、セットアップをバラした見事な“着回しコーデ” 2日連続で2000円台の地元産イヤリングもお召しに 
NEWSポストセブン
高校時代の青木被告(集合写真)
《長野立てこもり4人殺害事件初公判》「部屋に盗聴器が仕掛けられ、いつでも悪口が聞こえてくる……」被告が語っていた事件前の“妄想”と父親の“悔恨”
NEWSポストセブン
世界的アスリートを狙った強盗事件が相次いでいる(時事通信フォト)
《イチロー氏も自宅侵入被害、弓子夫人が危機一髪》妻の真美子さんを強盗から守りたい…「自宅で撮った写真」に見える大谷翔平の“徹底的な”SNS危機管理と自宅警備体制
NEWSポストセブン
鳥取県を訪問された佳子さま(2025年9月13日、撮影/JMPA)
佳子さま、鳥取県ご訪問でピンクコーデをご披露 2000円の「七宝焼イヤリング」からうかがえる“お気持ち”
NEWSポストセブン
長崎県へ訪問された天皇ご一家(2025年9月12日、撮影/JMPA)
《長崎ご訪問》雅子さまと愛子さまの“母娘リンクコーデ” パイピングジャケットやペールブルーのセットアップに共通点もおふたりが見せた着こなしの“違い”
NEWSポストセブン
ウクライナ出身の女性イリーナ・ザルツカさん(23)がナイフで切りつけられて亡くなった(Instagramより)
《監視カメラが捉えた残忍な犯行》「刺された後、手で顔を覆い倒れた」戦火から逃れたウクライナ女性(23)米・無差別刺殺事件、トランプ大統領は「死刑以外の選択肢はない」
NEWSポストセブン
国民に笑いを届け続けた稀代のコント師・志村けんさん(共同通信)
《恋人との密会や空き巣被害も》「売物件」となった志村けんさんの3億円豪邸…高級時計や指輪、トロフィーは無造作に置かれていたのに「金庫にあった大切なモノ」
NEWSポストセブン