ライフ

就職内定後29才で乳がん発覚した女性 手術に至る経緯を語る

 乳がんは、日本の女性が罹患するがんのトップだ。そして、早期発見(0期)なら10年生存率が95%と高いがんでもある。ノンフィクション作家の島村菜津さん(49才)は、自身も乳がんによる手術を昨年行った。その彼女が、医療技術の進歩の結果、数多く誕生している“サバイバー”の中から、若年性乳がんを克服した女性に話を聞いた。若いゆえに入っていなかった医療保険、仕事、乳房の温存…悩みは多岐にわたった。以下、島村さんからの報告だ。

 * * *
 日本の乳がんに特徴的なのは、50代がピークのアメリカに比べて、ピークが40代と若いこと。しかも昨今の傾向としては、20~30代で発症する若年性乳がんが増えている。

 乳がんの治療法や暮らしへの影響は、女性の年齢やライフスタイルによっても、大きく異なる。これからは、がんの進行度や悪性度によるパターン化した治療法に合わせるのではなく、もっと“個々の思い”に寄り添った治療ができる時代になる。

 1977年生まれの松さや香さんの乳がんが発覚したのは、29才の時だった。64才の父親を肝臓がんで送った1年後の出来事だった。

 松さんは、日本人の父と台湾系華僑の娘だった母親との間に生まれた。しかし、子供のころから父親との折り合いが悪く、23才の時、意を決して家出。東京で就職した。それでも、父親が末期の肝臓がんになった時には、仕事を辞めて、ひと月半ほど付き添った。

 乳がんが発覚したのは、ある出版社の情報誌編集部に編集者として内定をもらった直後のことだった。乳がんは普通、無痛のケースが多いが、松さんの場合、きっかけは胸の痛みだった。

「当時交際していた彼のバイクに乗っていた時、何かの拍子に彼の背にぶつかると、声が出ないほど胸にものすごい痛みを覚えました。慌てて、かかりつけの医者に看てもらうと、“本来、がんでは痛みはないから大丈夫でしょう”と言われましたが、今思えば、気休めだったのかな?」(松さん)

 その病院で、乳房の組織を取り出し、これを検査する「針生検」もしたが、がん細胞は見つからない。

 医師たちが検査結果を見て、「がんじゃないと思う。けれど念のために」と、勧めたMRIクリニックへ検査に向かった。しかし、その検査を経ても医師たちは「まだ断言できない」。再び勧められるまま大学病院へ行き二度目の針生検。しかし、

「“やっぱりがん細胞、出ないんだよね”と言われました。そこで思わず“ということは、がんじゃないのでは”と私が口にすると、大学病院の医師は爆笑した。“MRIのこんな結果で、がんじゃないって言われたら、学会に発表もんだ。がんですよ”と笑われました」(松さん)

 医師の腕が足りないのか、MRIの画像は“クロ”なのに細胞が取れないというのだ。デリカシーのかけらもない対応に、松さんは深いショックを受けた。

「こんな告知なんて」

 その後、マンモグラフィーを撮りながら生体を採取するマンモトームで、約6cmの腫瘍の一部からがん細胞を発見。

 しかも腫瘍は2つ。同じ乳房から、がんの証拠でもあるという石灰化も見つかった。

 左乳房全摘との診断結果を出された松さんが、いろいろ調べた結果、「同時再建(乳房を全摘する手術の段階で、皮膚を伸ばすためのエキスパンダーを挿入し、乳房再建を始めること)」を希望すると、その医師は、「同時再建は、形成外科の先生も同時に2人、手術室に入らなくてはいけないんだ。スケジュールを合わせるのが大変なんだよね」と、手術予定がみっちり書かれた手帳を面倒くさそうに見せた。

 医師の都合のみで、患者の意思を鑑みない態度に、松さんは思い切って、病院を変えたいと申し出た。

 こうして、同時再建ができる病院に移ると、すべてのデータが渡っていたこともあり、初診の席には、形成外科医、薬剤師、乳腺外科医の3人が同席してくれた。

「今思えば、日本ではまだこれからという“チーム医療”でした」(松さん)

 それが、『聖路加国際病院』の山内英子乳腺外科部長らが全国に拡げようとしている“個々の思い”にできるだけ寄り添うための、チーム医療への試みの成果だった。

「形成外科の先生などは、“シリコンパックは形や大きさも何種類もあって、決めるのは浮き浮きしますよ”と言ってくれ、診察室はポジティブオーラに満ちていました。情報もふんだんに入り、やっと心が落ち着きました」(松さん)

 松さんは、著書『彼女失格 恋してるだとか、ガンだとか』(幻冬舎刊)にも若年性乳がん5年の記録を綴っている。

※女性セブン2013年7月25日号

関連記事

トピックス

真美子さんの帰国予定は(時事通信フォト)
《年末か来春か…大谷翔平の帰国タイミング予測》真美子さんを日本で待つ「大切な存在」、WBCで久々の帰省の可能性も 
NEWSポストセブン
シェントーン寺院を訪問された天皇皇后両陛下の長女・愛子さま(2025年11月21日、撮影/横田紋子)
《ラオスご訪問で“お似合い”と絶賛の声》「すてきで何回もみちゃう」愛子さま、メンズライクなパンツスーツから一転 “定番色”ピンクの民族衣装をお召しに
NEWSポストセブン
”クマ研究の権威”である坪田敏男教授がインタビューに答えた
ことし“冬眠しないクマ”は増えるのか? 熊研究の権威・坪田敏男教授が語る“リアルなクマ分析”「エサが足りずイライラ状態になっている」
NEWSポストセブン
“ポケットイン”で話題になった劉勁松アジア局長(時事通信フォト)
“両手ポケットイン”中国外交官が「ニコニコ笑顔」で「握手のため自ら手を差し伸べた」“意外な相手”とは【日中局長会議の動画がアジアで波紋】
NEWSポストセブン
11月10日、金屏風の前で婚約会見を行った歌舞伎俳優の中村橋之助と元乃木坂46で女優の能條愛未
《中村橋之助&能條愛未が歌舞伎界で12年9か月ぶりの金屏風会見》三田寛子、藤原紀香、前田愛…一家を支える完璧で最強な“梨園の妻”たち
女性セブン
土曜プレミアムで放送される映画『テルマエ・ロマエ』
《一連の騒動の影響は?》フジテレビ特番枠『土曜プレミアム』に異変 かつての映画枠『ゴールデン洋画劇場』に回帰か、それとも苦渋の選択か 
NEWSポストセブン
インドネシア人のレインハルト・シナガ受刑者(グレーター・マンチェスター警察HPより)
「2年間で136人の被害者」「犯行中の映像が3TB押収」イギリス史上最悪の“レイプ犯”、 地獄の刑務所生活で暴力に遭い「本国送還」求める【殺人以外で異例の“終身刑”】
NEWSポストセブン
“マエケン”こと前田健太投手(Instagramより)
“関東球団は諦めた”去就が注目される前田健太投手が“心変わり”か…元女子アナ妻との「家族愛」と「活躍の機会」の狭間で
NEWSポストセブン
ラオスを公式訪問されている天皇皇后両陛下の長女・愛子さまラオス訪問(2025年11月18日、撮影/横田紋子)
《何もかもが美しく素晴らしい》愛子さま、ラオスでの晩餐会で魅せた着物姿に上がる絶賛の声 「菊」「橘」など縁起の良い柄で示された“親善”のお気持ち
NEWSポストセブン
大谷翔平(時事通信フォト)
オフ突入の大谷翔平、怒涛の分刻みCM撮影ラッシュ 持ち時間は1社4時間から2時間に短縮でもスポンサーを感激させる強いこだわり 年末年始は“極秘帰国計画”か 
女性セブン
65歳ストーカー女性からの被害状況を明かした中村敬斗(時事通信フォト)
《恐怖の粘着メッセージ》中村敬斗選手(25)へのつきまといで65歳の女が逮捕 容疑者がインスタ投稿していた「愛の言葉」 SNS時代の深刻なストーカー被害
NEWSポストセブン
俳優の水上恒司が年上女性と真剣交際していることがわかった
「はい!お付き合いしています」水上恒司(26)が“秒速回答、背景にあった恋愛哲学「ごまかすのは相手に失礼」
NEWSポストセブン