竹下正己弁護士の法律相談コーナー。今回は「命に関わる問題以外は対応が鈍い労基署。それでも相談すべきか」という質問が寄せられた。
【質問】
上司の陰湿なパワハラに遭っており、たまらず県の労働基準監督署に電話をすると「生命に関わる事例でない限り対応しません」というアナウンス。今のところ、命に関わるまではいっていないので、連絡を入れるのを躊躇していますが、それでも署に訴え善後策を講じてもらうべきでしょうか。
【回答】
職場のパワハラは、厚労省の検討会によれば「同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為をいう」と定義されています。典型としては
(1)暴行・傷害
(2)脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言
(3)隔離・仲間外し・無視
(4)業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害
(5)業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと
(6)私的なことに過度に立ち入ること――などが挙げられています。
上司がこうしたパワハラをした場合、パワハラ行為の動機・目的、時間・場所、態様等を総合的に判断し、「職務を遂行する過程において部下に対して、職務上の地位・権限を逸脱・濫用し、社会通念に照らし客観的な見地からみて、通常人が許容し得る範囲を著しく超えるような有形・無形の圧力を加える行為をしたと評価される場合」は、被害者の人格権を侵害する不法行為になるとした裁判例があります。
命に関わらなくても、肉体的苦痛や精神的苦痛を受けたときは、被った損害について上司だけでなく使用者である会社も使用者責任を負うことになります。会社にとっては良好な職場環境を保つことは経営のためにも必要なはずです。職場にホットラインをおいて、パワハラ・セクハラに対応している会社も少なくありません。労基署だけでなく、会社の別の上司に相談できませんか。
会社が動かない場合には職場環境の問題ですから、会社との個別労働関係紛争として、都道府県の労働局長にパワハラ解決のあっ旋を求めるとよいと思います。会社は、あなたがこの申し立てをしても不利益扱いはできません。
※週刊ポスト2013年7月19・26日号