スポーツ

桐光・松井裕樹 将来を見据えて夏前の時期に新球を試していた

「甲子園22奪三振」で知られる桐光学園・松井裕樹(17)の夏は7月25日、神奈川県大会準々決勝で終わった。しかし、横浜戦で見せた“輝き”は、新たな怪物伝説を予感させた。ノンフィクションライターの柳川悠二氏が綴る。(文中敬称略)

 * * *
 神奈川大会の初戦まで、まだ2週間の時間を残していた時期、桐光学園は浦和学院と練習試合を行っていた。
 
 松井は今春のセンバツ王者相手に、9回をわずか108球(18奪三振)で料理してしまう。この試合を視察した北海道日本ハムの大渕隆スカウトディレクターは絶賛するばかりだった。
 
「自分なりの課題を持ってピッチングし、抑えているんだからたいしたもの。最後の夏に向けて万全の仕上がりではないでしょうか」
 
 松井は、春先に覚えたというチェンジアップを右打者相手に効果的に使っていた。カウントを整えるボールとして、あるいは勝負球として。
 
 そして、私はある左打者に投じた一球を見逃さなかった。インコースに投じられたボールは、打者の手元でキュッと鋭く曲がった。カットボールである。
 
 この日も多くの報道陣が詰めかけていたが、おそらく松井が投じたこのボールに気づいた者は他にいないはずだ。松井がチェンジアップについて言及することはあっても、カットボールの存在を明かしたことはない。
 
 そういえば桐光学園監督の野呂雅之が練習の合間に「夏に向けて秘策がある」と話したことがあったが、右打者に有効なチェンジアップに加え、左打者の打ち損じを誘うカットボールこそが、野呂の言う秘策だったのだろう。
 
 新球が甲子園で披露されることは「幻」となってしまったが、松井はしたたかに夏の大会を迎えようとしていた。野呂はいう。
 
「今に思えば、春のセンバツに出られなかったのが松井にとっては良かったと思います。身体をゼロから作り直し、ピッチャーとして必要な筋肉を自然な形でつけられるだけの時間がありましたから」
 
 さらには精神面の落ち着きと、視野の広がりを指摘する。
 
「最近では、3-0で勝っているような試合の2死、ツーストライクからでも冷静に投げられるようになった。走者がいなければ、普通は気を抜いてもおかしくない場面ですが、ゆっくり間を作って、コーナーをついていく。それに捕手ではなく、相手打者の目を見ながら投げられるようになった。どんな球種を待っているのか、打者の心理を考えながらピッチングしているんです」
 
 それにしてもまさかこの時期に新球カットボールを試しているとは思わなかった。明らかにもっと先の世界を松井は見据えている。

※週刊ポスト2013年8月9日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

小林ひとみ
結婚したのは“事務所の社長”…元セクシー女優・小林ひとみ(62)が直面した“2児の子育て”と“実際の収入”「背に腹は代えられない」仕事と育児を両立した“怒涛の日々” 
NEWSポストセブン
松田聖子のものまねタレント・Seiko
《ステージ4の大腸がん公表》松田聖子のものまねタレント・Seikoが語った「“余命3か月”を過ぎた現在」…「子供がいたらどんなに良かっただろう」と語る“真意”
NEWSポストセブン
今年5月に芸能界を引退した西内まりや
《西内まりやの意外な現在…》芸能界引退に姉の裁判は「関係なかったのに」と惜しむ声 全SNS削除も、年内に目撃されていた「ファッションイベントでの姿」
NEWSポストセブン
(EPA=時事)
《2025の秋篠宮家・佳子さまは“ビジュ重視”》「クッキリ服」「寝顔騒動」…SNSの中心にいつづけた1年間 紀子さまが望む「彼女らしい生き方」とは
NEWSポストセブン
イギリス出身のお騒がせ女性インフルエンサーであるボニー・ブルー(AFP=時事)
《大胆オフショルの金髪美女が小瓶に唾液をたらり…》世界的お騒がせインフルエンサー(26)が来日する可能性は? ついに編み出した“遠隔ファンサ”の手法
NEWSポストセブン
日本各地に残る性器を祀る祭りを巡っている
《セクハラや研究能力の限界を感じたことも…》“性器崇拝” の“奇祭”を60回以上巡った女性研究者が「沼」に再び引きずり込まれるまで
NEWSポストセブン
初公判は9月9日に大阪地裁で開かれた
「全裸で浴槽の中にしゃがみ…」「拒否ったら鼻の骨を折ります」コスプレイヤー・佐藤沙希被告の被害男性が明かした“エグい暴行”「警察が『今しかないよ』と言ってくれて…」
NEWSポストセブン
指名手配中の八田與一容疑者(提供:大分県警)
《ひき逃げ手配犯・八田與一の母を直撃》「警察にはもう話したので…」“アクセルベタ踏み”で2人死傷から3年半、“女手ひとつで一生懸命育てた実母”が記者に語ったこと
NEWSポストセブン
初公判では、証拠取調べにおいて、弁護人はその大半の証拠の取調べに対し不同意としている
《交際相手の乳首と左薬指を切断》「切っても再生するから」「生活保護受けろ」コスプレイヤー・佐藤沙希被告の被害男性が語った“おぞましいほどの恐怖支配”と交際の実態
NEWSポストセブン
国分太一の素顔を知る『ガチンコ!』で共演の武道家・大和龍門氏が激白(左/時事通信フォト)
「あなたは日テレに捨てられたんだよっ!」国分太一の素顔を知る『ガチンコ!』で共演の武道家・大和龍門氏が激白「今の状態で戻っても…」「スパッと見切りを」
NEWSポストセブン
2009年8月6日に世田谷区の自宅で亡くなった大原麗子
《私は絶対にやらない》大原麗子さんが孤独な最期を迎えたベッドルーム「女優だから信念を曲げたくない」金銭苦のなかで断り続けた“意外な仕事” 
NEWSポストセブン
ドラフト1位の大谷に次いでドラフト2位で入団した森本龍弥さん(時事通信)
「二次会には絶対来なかった」大谷翔平に次ぐドラフト2位だった森本龍弥さんが明かす野球人生と“大谷の素顔”…「グラウンドに誰もいなくなってから1人で黙々と練習」
NEWSポストセブン