国内

安倍内閣の「不協和音」は命運を左右する問題には発展しない

 消費税引き上げをめぐる論議が熱を帯びてきた。本来なら与野党の間で侃々諤々の論争が起きて、従来にも増して国会の動きが注目を集めてもおかしくないところだ。

 ところが通常国会は閉幕し、秋の臨時国会まで当分、時間がある。加えて先の参院選では民主党をはじめとする野党が大敗を喫して、いまは敗北の総括と内輪もめで精一杯だ。とても論戦どころではない状況である。

 こうなると、日本経済の行方を左右する大問題であるにもかかわらず、当面は与党内の議論が増税への流れを左右する展開になっている。それは、けっして望ましい状況ではない。だからといって、ないものねだりもできず、メディアは勢い、与党の動きに注目せざるを得なくなっている。

 そのあたりを読売新聞はいち早く「安倍内閣の不協和音が表面化してきた」として次のように書いた。「『法律を決めた時と今とを比べて、悪くなった指標は一つもない。予定通りやらせていただきたい』。麻生氏は23日の記者会見で、こう強調した。(中略)一方、田村厚生労働相は23日の閣議後の記者会見で、『消費税を上げても景気が腰折れし、税収自体が増えなければ本末転倒になる』と述べ、慎重な判断を求めた」(7月24日付)。

 この「安倍内閣の不協和音」というキーワードはこれから当分、流行り言葉になるだろう。野党が負け過ぎた結果、実質的な意味のある政策論議は与党内に絞られてしまうからだ。

 与党内で議論が激しくなればなるほど、外から見れば「不協和音」のように映る。メディアはそれを「不協和音」や「きしみ」、極端な場合には「閣内不一致」と書く。そのほうが記事も面白くなる。メディアはいつだって派手なケンカが大好きである。

 テレビの政治番組担当者が本音を漏らしていた。

「これだけ与党が圧勝してしまうと、私たちはこれからどうやって番組を作ったらいいのか。もはや与野党のケンカは勝負がついたも同然だから、与野党対決で番組を作っても視聴者がついてこない。一番困ってるのは私たちですよ」

 だから「内閣の不協和音」を指摘する記事はこれからどんどん出てくるのではないか。それ以上の面白い政治ネタはないからだ。真っ先に指摘した読売はさすがである。後から書いても、二番煎じになってしまう。

 すると、真の問題は「本当に内閣に不協和音があるのか。そして、それはどれほど重大か」という話になる。

 結論を言えば、不協和音はたしかにある。だが、だからといって安倍内閣の命運を左右するほど重大な問題に発展するかといえば、私はならないと思う。内閣支持率が高く、自民党議員たちは「内輪もめで墓穴を掘るのは、まっぴらご免」と思っているのだ。

 それに実は、麻生vs安倍バトルは日銀総裁人事をめぐって第1ラウンドが終わっている。それは安倍の勝利に終わった。それで2人の間にしこりも残らなかった。最後に麻生が「総理のご判断にしたがう」と引いたからだ。麻生はさすが総理経験者である。

 今回の消費税バトルも収まるべくして収まるだろう。間違っても麻生は最後まで徹底抗戦し、政権基盤を揺るがすようなまねをするはずがない。

 メディアの不協和音記事は間違ってはいないが、あまり真に受けてもいけない。お互い、役割分担しているにすぎないのだ。そのあたりの呼吸を深掘りした記事を読んでみたい。

文■長谷川幸洋(ジャーナリスト):東京新聞・中日新聞論説副主幹。1953年生まれ。ジョンズ・ホプキンス大学大学院卒。政府の規制改革会議委員、大阪市の人事監察委員会委員長も務める。近著に『政府はこうして国民を騙す』(講談社)。

※週刊ポスト2013年8月16・23日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

大谷と真美子さんを支える「絶対的味方」の存在とは
《ハワイ別荘・泥沼訴訟を深堀り》大谷翔平が真美子さんと娘をめぐって“許せなかった一線”…原告の日本人女性は「(大谷サイドが)不法に妨害した」と主張
NEWSポストセブン
世界的な人気を誇るシンガー・d4vd(20)(Instagramより)
「行方不明の10代少女のバラバラ遺体が袋詰めに」世界的人気歌手・d4vdが所有する高級車のトランクに遺棄《お揃いのタトゥー「 Shhh…」で発覚した2人の共通点》
NEWSポストセブン
須藤被告(左)と野崎さん(右)
《紀州のドン・ファンの遺言書》元妻が「約6億5000万円ゲット」の可能性…「ゴム手袋をつけて初夜」法廷で主張されていた野崎さんとの“異様な関係性”
NEWSポストセブン
神田正輝の卒業までに中丸の復帰は間に合うのか(右・Instagramより)
《神田正輝の番組卒業から1年》中丸雄一、『旅サラダ』降板発表前に見せた“不義理”に現場スタッフがおぼえた違和感
NEWSポストセブン
イギリス出身のボニー・ブルー(本人のインスタグラムより)
「タダで行為できます」騒動の金髪美女インフルエンサー(26)の“過激バスツアー”に批判殺到 大学フェミニスト協会は「企画に参加し、支持する全員に反対」
NEWSポストセブン
ラーメン店の厨房は暑い(イメージ)
《「汗を落とすな」「清潔感がない」》猛暑で増えた「汗クレーム」 熱湯で麺を茹で上げるラーメン店やエアコンが使えないエアコン取り付け工事にも
NEWSポストセブン
主人公・のぶ(今井美桜)の幼馴染・小川うさ子役を演じた志田彩良(写真提供/NHK)
【『あんぱん』秘話インタビュー】のぶの親友うさ子を演じた志田彩良が明かすヒロインオーディション「落ちた悔しさから泣いたのは初めて」
週刊ポスト
寮内の暴力事案は裁判沙汰に
《いまだ続く広陵野球部の暴力問題》加害生徒が被害生徒の保護者を名誉毀損で訴えた背景 同校は「対岸の火事」のような反応
週刊ポスト
どんな役柄でも見事に演じきることで定評がある芳根京子(2020年、映画『記憶屋』のイベント)
《ヘソ出し白Tで颯爽と》女優・芳根京子、乃木坂46のライブをお忍び鑑賞 ファンを虜にした「ライブ中の一幕」
NEWSポストセブン
俳優の松田翔太、妻でモデルの秋元梢(右/時事通信フォト)
《松田龍平、翔太兄弟夫婦がタイでバカンス目撃撮》秋元梢が甥っ子を優しく見守り…ファミリーが交流した「初のフォーショット」
NEWSポストセブン
佳子さまを撮影した動画がXで話題になっている(時事通信フォト)
《即完売》佳子さま、着用した2750円イヤリングのメーカーが当日の「トータルコーディネート」に感激
NEWSポストセブン
国連大学50周年記念式典に出席された天皇皇后両陛下(2025年9月18日、撮影/JMPA)
《国連大学50周年記念式典》皇后雅子さまが見せられたマスタードイエローの“サステナブルファッション” 沖縄ご訪問や園遊会でお召しの一着をお選びに 
NEWSポストセブン