芸能

故夏八木勲に「圧倒された」と『終戦の…』米主演俳優が絶賛

 国際的に活躍する日本人俳優は増えてきたが、多くは英語を話している。現在、全国で公開中のハリウッド映画『終戦のエンペラー』では、普通に日本語が話されている場面が多い。主人公を演じたマシュー・フォックスは、ドラマ『LOST』に主演し日本でも知られるようになり、ハリウッドの第一線で活躍している。彼にとって、共演した日本人俳優たちの言葉はどのように届いたのか、映画史・時代劇研究家の春日太一氏が綴る。

 * * *
 現在、ハリウッド映画『終戦のエンペラー』が公開中だ。日本がいかにして太平洋戦争の敗北を認めて終戦し、その際に昭和天皇はいかなる役割を果たしたのか。その調査をマッカーサーに命じられたGHQの米軍将校が当時の日本政府高官たちを聴取していくという視点が斬新な、ミステリー仕立ての作品だ。

 そのため、主人公を演じたマシュー・フォックスは、多くの日本人俳優と共演している。ハリウッドの第一線で活躍する男の目には、日本のベテランたちの演技はどう映ったのだろう。

「日本人の俳優たちと共演できるのは、とても光栄なことでした。彼らには、ある種の静けさと強さを併せもった、非常に独特な演技の形式があります。そうした演技を間近に見たり、一緒に演じたりしながら、多くのことを学ぶことができました」

 劇中で最も鮮烈な印象を与えてくれるのは、先日亡くなった夏八木勲である。彼が演じるのは、天皇の最側近として仕える侍従役だ。なんとか天皇の真意を聞き出そうとする主人公に対し突然立ち上がって短歌を詠み上げたりしながら、のらりくらりと回答をはぐらかすシーンには独特の緊迫感があった。夏八木の不敵な芝居は、完全にその場を圧倒していた。

「あのシーンはとてもよく覚えています。夏八木さんが演じたのは自尊心の強い男で、短歌を詠み上げるところにそれが現れていたと思います。あそこまで力強い言葉は、これまで聞いたことはありませんでした。

 リハーサルの段階で彼の短歌を耳にして、一個人として素に戻ってしまうくらい凄いと思えました。私が演じたフェラーズ准将は、あの場面では答えを得ようとして迫るものの得ることができず、とてもイラついていました。そこにあの短歌を聞いて呆気にとられてしまう。そんな気持ちが自分のこととして体感できる、感動的な短歌でした。

 共演者の演技に持っていかれたり、相手のセリフに飲み込まれてしまうというのは、俳優にとっての醍醐味だと思います」

●春日太一(かすが・たいち)/1977年、東京都生まれ。映画史・時代劇研究家。著書に『天才 勝新太郎』(文春新書)、『仲代達矢が語る日本映画黄金時代』(PHP新書)ほか。

※週刊ポスト2013年8月30日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)と稲川会の内堀和也会長
六代目山口組が住吉会最高幹部との盃を「突然中止」か…暴力団や警察関係者に緊張が走った竹内照明若頭の不可解な「2度の稲川会電撃訪問」
NEWSポストセブン
浅香光代さんと内縁の夫・世志凡太氏
《訃報》コメディアン・世志凡太さん逝去、音楽プロデューサーとして「フィンガー5」を世に送り出し…直近で明かしていた現在の生活「周囲は“浅香光代さんの夫”と認識しています」
NEWSポストセブン
警視庁赤坂署に入る大津陽一郎容疑者(共同通信)
《赤坂・ライブハウス刺傷で現役自衛官逮捕》「妻子を隠して被害女性と“不倫”」「別れたがトラブルない」“チャリ20キロ爆走男” 大津陽一郎容疑者の呆れた供述とあまりに高い計画性
NEWSポストセブン
無銭飲食を繰り返したとして逮捕された台湾出身のインフルエンサーペイ・チャン(34)(Instagramより)
《支払いの代わりに性的サービスを提案》米・美しすぎる台湾出身の“食い逃げ犯”、高級店で無銭飲食を繰り返す 「美食家インフルエンサー」の“手口”【1か月で5回の逮捕】
NEWSポストセブン
温泉モデルとして混浴温泉を推しているしずかちゃん(左はイメージ/Getty Images)
「自然の一部になれる」温泉モデル・しずかちゃんが“混浴温泉”を残すべく活動を続ける理由「最初はカップルや夫婦で行くことをオススメします」
NEWSポストセブン
宮城県栗原市でクマと戦い生き残った秋田犬「テツ」(左の写真はサンプルです)
《熊と戦った秋田犬の壮絶な闘い》「愛犬が背中からダラダラと流血…」飼い主が語る緊迫の瞬間「扉を開けるとクマが1秒でこちらに飛びかかってきた」
NEWSポストセブン
高市早苗総理の”台湾有事発言”をめぐり、日中関係が冷え込んでいる(時事通信フォト)
【中国人観光客減少への本音】「高市さんはもう少し言い方を考えて」vs.「正直このまま来なくていい」消えた訪日客に浅草の人々が賛否、着物レンタル業者は“売上2〜3割減”見込みも
NEWSポストセブン
全米の注目を集めたドジャース・山本由伸と、愛犬のカルロス(左/時事通信フォト、右/Instagramより)
《ハイブラ好きとのギャップ》山本由伸の母・由美さん思いな素顔…愛犬・カルロスを「シェルターで一緒に購入」 大阪時代は2人で庶民派焼肉へ…「イライラしている姿を見たことがない “純粋”な人柄とは
NEWSポストセブン
真美子さんの帰国予定は(時事通信フォト)
《年末か来春か…大谷翔平の帰国タイミング予測》真美子さんを日本で待つ「大切な存在」、WBCで久々の帰省の可能性も 
NEWSポストセブン
シェントーン寺院を訪問された天皇皇后両陛下の長女・愛子さま(2025年11月21日、撮影/横田紋子)
《ラオスご訪問で“お似合い”と絶賛の声》「すてきで何回もみちゃう」愛子さま、メンズライクなパンツスーツから一転 “定番色”ピンクの民族衣装をお召しに
NEWSポストセブン
インドネシア人のレインハルト・シナガ受刑者(グレーター・マンチェスター警察HPより)
「2年間で136人の被害者」「犯行中の映像が3TB押収」イギリス史上最悪の“レイプ犯”、 地獄の刑務所生活で暴力に遭い「本国送還」求める【殺人以外で異例の“終身刑”】
NEWSポストセブン
“マエケン”こと前田健太投手(Instagramより)
“関東球団は諦めた”去就が注目される前田健太投手が“心変わり”か…元女子アナ妻との「家族愛」と「活躍の機会」の狭間で
NEWSポストセブン