芸能

林与一 「芸とは自分ではなくお客さんが楽しむためのもの」

 歌舞伎役者として芸歴をスタートし、その後、数々の時代劇映画やドラマに出演してきた俳優、林与一は見事な殺陣と二枚目ぶりが何十年も変わらない。その色男ぶりのルーツについて語る林の言葉を、映画史・時代劇研究家の春日太一氏が綴る。

 * * *
 林与一は70歳を超えた今も舞台などで活躍、変わらぬ色気ある芝居で観客を魅了している。

 関西歌舞伎の名門に生まれた林は、1958年に15歳で初舞台に立つ。その数年後、単身で東京に移り、改めて役者としての修行を始めた。弟子入りしたのは長谷川一夫。「流し目」で一世を風靡し、映画界に君臨した「元祖・二枚目スター」だ。

「長谷川一夫の家に居候していました。『人が七時間寝るなら三時間にして、残りの四時間を勉強しろ』と、とにかく言われまして。ですから23歳くらいまでは外で飯を食べることもまずなかった。長谷川を朝起こして、舞台に付いていって、それから帰ってきてご飯を食べ、寝るまでお付き合いする。その間に芸の話を伺いました。

 私の芝居の九割が長谷川の影響です。例えば衣装の選び方。長谷川は背が高くないので、格子柄の着物を着たら縦の格子の色を少し濃くしていました。そうすることで、縦に長く見える。

 立ち姿の『かたち』も長谷川流です。『舞台では、役者がつらく思えるような格好が人さまには綺麗に見えるよ』と。浮世絵って綺麗ですけど、つらい姿勢をしています。ああいう格好を舞台でしなきゃいけない。

 大事なのは、どうしたらお客さんにいい格好に見えるかということです。芸というのはお客さんが楽しむためにあるんだから、自分が楽しんでいい気持ちになっちゃいけない。自分のやりたいものは必ずしもお客さまには新鮮ではないんです」

※林与一氏は、10月6日に「芝本流踊りの会」(大阪・吹田市文化会館メイシアター)に出演・監修。11月4日~12月1日は北島三郎特別公演(福岡・博多座)に出演。

●春日太一(かすが・たいち)/1977年、東京都生まれ。映画史・時代劇研究家。著書に『天才 勝新太郎』(文春新書)、『仲代達矢が語る日本映画黄金時代』(PHP新書)ほか。

※週刊ポスト2013年9月6日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

世界中でセレブら感度の高い人たちに流行中のアスレジャーファッション(左・日本のアスレジャーブランド「RUELLE」のInstagramより、右・Backgrid/アフロ)
《広瀬すずもピッタリスパッツを普段着で…》「カタチが見える服」と賛否両論の“アスレジャー”が日本でも流行の兆し、専門家は「新しいラグジュアリーという捉え方も」と解説
NEWSポストセブン
浅香さんの自宅から姿を消した内縁の夫・世志凡太氏
《長女が追悼コメント》「父と過ごした日々を誇りに…」老衰で死去の世志凡太さん(享年91)、同居するスリランカ人が自宅で発見
取締役の辞任を発表したフジ・メディア・ホールディングスとフジテレビ(共同通信社)
《辞任したフジ女性役員に「不適切経費問題」を直撃》社員からは疑問の声が噴出、フジは「ガバナンスの強化を図ってまいります」と回答
NEWSポストセブン
子宮体がんだったことを明かしたタレントの山瀬まみ
《“もう言葉を話すことはない”と医師が宣告》山瀬まみ「子宮体がん」「脳梗塞」からの復帰を支えた俳優・中上雅巳との夫婦同伴姿
NEWSポストセブン
愛子さま(写真/共同通信社)
《12月1日がお誕生日》愛子さま、愛に包まれた24年 お宮参り、運動会、木登り、演奏会、運動会…これまでの歩み 
女性セブン
海外セレブの間では「アスレジャー
というファッションジャンルが流行(画像は日本のアスレジャーブランド、RUELLEのInstagramより)
《ぴったりレギンスで街歩き》外国人旅行者の“アスレジャー”ファッションに注意喚起〈多くの国では日常着として定着しているが、日本はそうではない〉
NEWSポストセブン
虐待があった田川市・松原保育園
《保育士10人が幼児を虐待》「麗奈は家で毎日泣いてた。追い詰められて…」逮捕された女性保育士(25)の夫が訴えた“園の職場環境”「ベテランがみんな辞めて頼れる人がおらんくなった」【福岡県田川市】
NEWSポストセブン
【複雑極まりない事情】元・貴景勝の湊川親方が常盤山部屋を継承へ 「複数の裏方が別の部屋へ移る」のはなぜ? 力士・スタッフに複数のルーツが混在…出羽海一門による裏方囲い込み説も
【複雑極まりない事情】元・貴景勝の湊川親方が常盤山部屋を継承へ 「複数の裏方が別の部屋へ移る」のはなぜ? 力士・スタッフに複数のルーツが混在…出羽海一門による裏方囲い込み説も
NEWSポストセブン
アスレジャースタイルで渋谷を歩く女性に街頭インタビュー(左はGettyImages、右はインタビューに応じた現役女子大生のユウコさん提供)
「同級生に笑われたこともある」現役女子大生(19)が「全身レギンス姿」で大学に通う理由…「海外ではだらしないとされる体型でも隠すことはない」日本に「アスレジャー」は定着するのか【海外で議論も】
NEWSポストセブン
中山美穂さんが亡くなってから1周忌が経とうとしている
《逝去から1年…いまだに叶わない墓参り》中山美穂さんが苦手にしていた意外な仕事「収録後に泣いて落ち込んでいました…」元事務所社長が明かした素顔
NEWSポストセブン
イギリス出身のインフルエンサー、ボニー・ブルー(Instagramより)(Instagramより)
《俺のカラダにサインして!》お騒がせ金髪美女インフルエンサー(26)のバスが若い男性グループから襲撃被害、本人不在でも“警備員追加”の大混乱に
NEWSポストセブン
(左から)中畑清氏、江本孟紀氏、達川光男氏の人気座談会(撮影/山崎力夫)
【江本孟紀・中畑清・達川光男座談会1】阪神・日本シリーズ敗退の原因を分析 「2戦目の先発起用が勝敗を分けた」 中畑氏は絶不調だった大山悠輔に厳しい一言
週刊ポスト