芸能

あまちゃん人気を宇野常寛氏が論考「GMTはAKBを超えたか?」

 空前のヒットとなったNHK朝ドラ『あまちゃん』。なぜかくも多くの日本人が夢中になったのか。評論家・宇野常寛氏が論考した。

 * * *
「あまちゃん」について語るべきことはあまりにも多いのですが、ここは編集部のオファーにしたがって昨今のアイドルブームとの関係に絞って考えてみましょう。

 ヒロイン・アキの母親である春子は80年代のアイドルブームにデビューを目指して故郷を捨てて上京し、敗北した過去があります。春子の上京とその失敗は劇中で常にあの頃に日本社会が見ていた甘い夢と、バブル崩壊後の挫折に重ねあわされている(たとえば春子が上京に使った架空のローカル線北三陸鉄道は当時の地方発展のビジョンと現在過疎に苦しむ地方の象徴になっている)。

 そして「あまちゃん」はその娘のアキが現代のアイドルブームを背景にデビューしていく物語です。アキの参加する「GMT47」というグループのモデルはむろんAKB48とその影響下にある地下アイドル群です。初期AKBやこれらの地下アイドルは春子の時代とは異なり、テレビではなく劇場や握手会場などの現場+ファンのインターネットでの発信で盛り上がっていくのが特徴です。

 そして各都道府県を代表する地元アイドルを集める企画である「GMT47」は同時に朝ドラそれ自体の比喩でもある。要するにテレビの時代を代表する「朝ドラ」は、テレビの斜陽とともにこれまでのやり方ではキツい。でも、現代のアイドルブームのようなネット時代のあたらしいやり方でなら復活できるのではないか、というメッセージがここにはあるように思えます。
 
 テレビが全国のお茶の間を結び、社会を一つにしていた時代(春子の時代)は20年ほど前からゆるやかに解体し、今の(アキの時代の)日本社会はばらばらです。それをどうやってつなぎ直すのか、「朝ドラ」をいかに再生するのか、「あまちゃん」の裏テーマだと僕は読んでいます。

 ただ一点だけ残念なのが、その現代ならではの「つながり」方の表現(現代のアイドルブームの描写)が取材不足のせいか少し甘いのが画竜点睛を欠いている点でしょうか。たとえばアイドルファンの描写はかなり古いステレオタイプに基づいている。あと、アキたちの先輩アイドルがスキャンダルで失脚する描写がありますが、実際のAKB48総選挙ではスキャンダルを逆手にとって話題を集めたメンバーがトップに君臨してしまっている。「事実は小説より奇なり」、あれは今いちばん面白いフィクションの「あまちゃん」が今いちばん注目されている現実(現象)であるAKBに負けてしまった一瞬だと思いました。

 しかし現代的な文化や風俗を取り込みつつもここでやりすぎずに、新しすぎずに、昭和を生きた日本人にもなじみやすい描写にうまく軟着陸していくのが「あまちゃん」ヒットのポイントのようにも思えます。この物語は夏と春子、春子とアキといった母娘の象徴する世代間断絶を埋める物語でもありますからね。今後が楽しみです。

●うの・つねひろ/1978年青森県生まれ。企画ユニット「第二次惑星開発委員会」主宰。批評誌『PLANETS』編集長。著書に『リトル・ピープルの時代』(幻冬舎)、共著に『AKB白熱論争』(幻冬舎新書)など。

※週刊ポスト2013年9月20・27日号

関連記事

トピックス

イベント出演辞退を連発している米倉涼子。
《長引く捜査》「ネットドラマでさえ扱いに困る」“マトリガサ入れ報道”米倉涼子はこの先どうなる? 元東京地検公安部長が指摘する「宙ぶらりんがずっと続く可能性」
マンションの周囲や敷地内にスマホを見ながら立っている女性が増えた(写真提供/イメージマート)
《高級タワマンがパパ活の現場に》元住民が嘆きの告発 周辺や敷地内に露出多めの女性が増え、スマホを片手に…居住者用ラウンジでデート、共用スペースでどんちゃん騒ぎも
NEWSポストセブン
アドヴァ・ラヴィ容疑者(Instagramより)
「性的被害を告発するとの脅しも…」アメリカ美女モデル(27)がマッチングアプリで高齢男性に“ロマンス”装い窃盗、高級住宅街で10件超の被害【LA保安局が異例の投稿】
NEWSポストセブン
デビュー25周年を迎えた後藤真希
デビュー25周年の後藤真希 「なんだか“作ったもの”に感じてしまった」とモー娘。時代の葛藤明かす きゃんちゅー、AKBとのコラボで感じた“意識の変化”も
NEWSポストセブン
部下と“ラブホ密会”が報じられた前橋市の小川晶市長(時事通信フォト・目撃者提供)
《ラブホ通い詰め問題でも続投》キリッとした目元と蠱惑的な口元…卒アル写真で見えた小川晶市長の“平成の女子高生”時代、同級生が明かす「市長のルーツ」も
NEWSポストセブン
亡くなった辻上里菜さん(写真/里菜さんの母親提供)
《22歳シングルマザー「ゴルフクラブ殴打殺人事件」に新証言》裁判で認められた被告の「女性と別の男の2人の脅されていた」の主張に、当事者である“別の男”が反論 「彼女が殺されたことも知らなかった」と手紙に綴る
NEWSポストセブン
ものづくりの現場がやっぱり好きだと菊川怜は言う
《15年ぶりに映画出演》菊川怜インタビュー 三児の子育てを中心とした生活の中、肉体的にハードでも「これまでのイメージを覆すような役にも挑戦していきたい」と意気込み
週刊ポスト
韓国の人気女性ライバー(24)が50代男性のファンから殺害される事件が起きた(Instagramより)
「車に強引に引きずり込んで…」「遺体には多数のアザと首を絞められた痕」韓国・人気女性ライバー(24)殺害、50代男性“VIPファン”による配信30分後の凶行
NEWSポストセブン
田久保市長の”卒業勘違い発言”を覆した「記録」についての証言が得られた(右:本人SNSより)
【新証言】学歴詐称疑惑の田久保市長、大学取得単位は「卒業要件の半分以下」だった 百条委関係者も「“勘違い”できるような数字ではない」と複数証言
NEWSポストセブン
本拠地で大活躍を見せた大谷翔平と、妻の真美子さん
《真美子さんと娘が待つスイートルームに直行》大谷翔平が試合後に見せた満面の笑み、アップ中も「スタンドに笑顔で手を振って…」本拠地で見られる“家族の絆”
NEWSポストセブン
バラエティ番組「ぽかぽか」に出演した益若つばさ(写真は2013年)
「こんな顔だった?」益若つばさ(40)が“人生最大のイメチェン”でネット騒然…元夫・梅しゃんが明かしていた息子との絶妙な距離感
NEWSポストセブン
ヴィクトリア皇太子と夫のダニエル王子を招かれた天皇皇后両陛下(2025年10月14日、時事通信フォト)
「同じシルバーのお召し物が素敵」皇后雅子さま、夕食会ファッションは“クール”で洗練されたセットアップコーデ
NEWSポストセブン