ライフ

原発を巡る論議の流れにおける裏側・問題点を分析した書籍

【書評】『原発論議はなぜ不毛なのか』武田徹/中公新書ラクレ/903円

【評者】福田ますみ(フリーライター)

 3.11の惨禍を前に国民の間に自然にわき起こった「みなが心を一つに」の声。しかし、福島第一原発の事故はこの願いとは逆に、国民を事実上、原発「ハンタイ」派と「スイシン」派に二分してしまった。両者のガチンコ対立は今も続いているが、ジャーナリストで評論家の著者は、こうした原発論議に潜む陥穽を一つひとつ抉ってみせる。

 そもそも、福島原発になぜ6基もの炉が密集しているのだろうか。1960年代、自治体は積極的に原発を地元に誘致したが、1970年代に入って、住民の原発反対運動の高まりとともに原発用地の新規取得は困難になった。原発を増やしたいなら既にある原発敷地内で増炉するしかなくなり、その結果、6基の炉が次々に崩壊する悪夢が現実のものとなった。つまり、対立の構図そのものが原発のリスクを増大させてきた一因だと著者はいう。

 原子炉の安全性確保にもこの構図が影を落とした。より安全な炉を開発したくても、原発は絶対安全と言っている手前、反対派から「それなら今ある炉は危険なのか」と突っ込まれることを恐れて頓挫してしまったのだ。

 ジャーナリズムも、両陣営に完全に色分けされた。反対派のメディアも推進派のメディアも、それぞれ科学者や知識人を取りこみ自説の正しさの主張に躍起となり、同じ事柄を報じても評価が180度異なるという事態になった。

 また、事故の重大性が明らかになると、マスコミ報道の重心は明らかに、津波や地震の被害から原発事故報道にシフトした。放射能の被害は原発直下だけでなく、グローバルに広がるからだ。

 しかし、マスコミが放射能の危険性を報じれば報じるほど、岩手県や宮城県の被災者だけでなく、福島第一原発の近くにいる人々でさえ、なんともいえない疎外感を味わうという倒錯した状況となったのである。

 推進派はまず、安全神話を捨て反対派の主張に耳を傾け、より安全な原子力利用の道を模索すべきであった。一方で反対派も、「原発の即時停止」に凝り固まるのではなく、徐々にリスクの軽減を図る選択を政府や電力会社が取ることを認めるべきであった?原発問題の望ましい解決策として、著者はそう語る。

 しかし現実は、両者が歩み寄ることはなく、事態はもはや抜き差しならぬところまで進んでしまっているのである。

※女性セブン2013年10月10日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

ドラフト1位の大谷に次いでドラフト2位で入団した森本龍弥さん(時事通信)
「二次会には絶対来なかった」大谷翔平に次ぐドラフト2位だった森本龍弥さんが明かす野球人生と“大谷の素顔”…「グラウンドに誰もいなくなってから1人で黙々と練習」
NEWSポストセブン
渡邊渚さん(撮影/藤本和典)
「私にとっての2025年の漢字は『出』です」 渡邊渚さんが綴る「新しい年にチャレンジしたこと」
NEWSポストセブン
ラオスを訪問された愛子さま(写真/共同通信社)
《「水光肌メイク」に絶賛の声》愛子さま「内側から発光しているようなツヤ感」の美肌の秘密 美容関係者は「清潔感・品格・フレッシュさの三拍子がそろった理想の皇族メイク」と分析
NEWSポストセブン
2009年8月6日に世田谷区の自宅で亡くなった大原麗子
《私は絶対にやらない》大原麗子さんが孤独な最期を迎えたベッドルーム「女優だから信念を曲げたくない」金銭苦のなかで断り続けた“意外な仕事” 
NEWSポストセブン
国宝級イケメンとして女性ファンが多い八木(本人のInstagramより)
「国宝級イケメン」FANTASTICS・八木勇征(28)が“韓国系カリスマギャル”と破局していた 原因となった“価値感の違い”
NEWSポストセブン
実力もファンサービスも超一流
【密着グラフ】新大関・安青錦、冬巡業ではファンサービスも超一流「今は自分がやるべきことをしっかり集中してやりたい」史上最速横綱の偉業に向けて勝負の1年
週刊ポスト
今回公開された資料には若い女性と見られる人物がクリントン氏の肩に手を回している写真などが含まれていた
「君は年を取りすぎている」「マッサージの仕事名目で…」当時16歳の性的虐待の被害者女性が訴え “エプスタインファイル”公開で見える人身売買事件のリアル
NEWSポストセブン
タレントでプロレスラーの上原わかな
「この体型ってプロレス的にはプラスなのかな?」ウエスト58センチ、太もも59センチの上原わかながムチムチボディを肯定できるようになった理由【2023年リングデビュー】
NEWSポストセブン
12月30日『レコード大賞』が放送される(インスタグラムより)
《度重なる限界説》レコード大賞、「大みそか→30日」への放送日移動から20年間踏み留まっている本質的な理由 
NEWSポストセブン
「戦後80年 戦争と子どもたち」を鑑賞された秋篠宮ご夫妻と佳子さま、悠仁さま(2025年12月26日、時事通信フォト)
《天皇ご一家との違いも》秋篠宮ご一家のモノトーンコーデ ストライプ柄ネクタイ&シルバー系アクセ、佳子さまは黒バッグで引き締め
NEWSポストセブン
ハリウッド進出を果たした水野美紀(時事通信フォト)
《バッキバキに仕上がった肉体》女優・水野美紀(51)が血生臭く殴り合う「母親ファイター」熱演し悲願のハリウッドデビュー、娘を同伴し現場で見せた“母の顔” 
NEWSポストセブン
六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)
《六代目山口組の抗争相手が沈黙を破る》神戸山口組、絆會、池田組が2026年も「強硬姿勢」 警察も警戒再強化へ
NEWSポストセブン