ライフ

「プア充」提言 社会豊かな日本では低収入でも幸せ生活可能

「年収300万円だからこそ、豊かで幸せな日々を送ることができる」

 こう提言するのは『プア充―高収入は、要らない―』(早川書房刊)を上梓した宗教学者の島田裕巳氏だ。島田氏がプア充のすすめを説く。

 * * *
「お金は、あればあるほど幸せになれる」 「辛い仕事でも、我慢して働いていれば、そのうちきっと報われる」

 果たしてそうだろうか。むしろ稼げば稼ぐほど、お金に対する不安や執着や欲望が増すのではないか。また、右肩上がりの経済成長が終わった日本では、がむしゃらに働いても、その労働に見合った収入を得るのは難しくなっている。特別な才能がないと高収入は期待できず、今後、格差はますます広がっていくだろう。そんな時代だからこそ、自分にとって豊かで幸せな生き方とはどのようなものかを改めて問い直す必要がある。

 私が提案するのは、会社に縛られずにそこそこ働き、年収300万円ぐらいで自分の生活を充実させていく「プア充」という生き方である。東洋の「小欲知足」(欲を持ちすぎず、現在の状態に満足する)という思想を、現代の日本に合う形にアレンジしたものだ。収入が低いからこそ豊かで安定した生活ができて、楽しく幸せに生きられるという考え方である。

 年収300万円というと、「それってワーキングプアじゃない?」「貯金できないし、結婚もできない」と思うかもしれない。しかし今の日本では、むしろ楽しく幸せに暮らしていくことができるのだ。

 その理由を説明しよう。会社で働いていると、今月より来月、今年より来年というように、常に成長していないと存在意義がないと考えがちだ。確かに会社は株主に利益をもたらすためにあるものだから、成長という使命からは逃れられない。

 しかし個人が「成長しなければならない」というプレッシャーにあおられると、過剰な労働に体を酷使してでも「もっと稼がなくては」という気持ちが際限なく湧いてくる。年収300万円を超えると、今度は350万円、次は400万円、さらに500万円といった具合に……。

 でも、そうなったら稼いでも稼いでも、永遠に満足することはないだろう。あれも欲しい、これも欲しい、だからもっとお金が欲しいなどと、お金に対する執着や欲望が増し、歯止めが利かなくなってしまう。

 さらに、稼いだら稼いだで、やれマイホームだのマイカーだのと、周りからいろんな誘惑がある。いったんローンを組んでマイホームを買ってしまうと、定年までローンに縛られる。お金を稼いでもローン返済に回さなければならないから、本人や家族の趣味や娯楽など、本当の楽しみのために使えるお金は残らない。稼いでいるのにお金がない状況に陥り、ますます「稼がなければ」と焦ってしまう。そんな生活は楽しくないし、幸せでもない。

 今の日本は社会全体が豊かになっているから、たいしたお金がなくてもそこそこの生活は維持できる。街を歩けばいろんな催しやイベントを行なっているし、無料で楽しめる娯楽もいっぱいある。社会インフラも整っていて、美術館や博物館に行けばわずかなお金で芸術作品を鑑賞できるし、知的好奇心を刺激するものを見ることができる。金額に比例して楽しさが増えるわけではない。

 欲を持ちすぎず、無駄な出費を抑え、社会の恩恵をうまく利用すれば、年収300万円でも豊かで楽しい暮らしができるのだ。

※SAPIO2013年11月号

関連キーワード

トピックス

水原一平氏のSNS周りでは1人の少女に注目が集まる(時事通信フォト)
水原一平氏とインフルエンサー少女 “副業のアンバサダー”が「ベンチ入り」「大谷翔平のホームランボールをゲット」の謎、SNS投稿は削除済
週刊ポスト
解散を発表した尼神インター(時事通信フォト)
《尼神インター解散の背景》「時間の問題だった」20キロ減ダイエットで“美容”に心酔の誠子、お笑いに熱心な渚との“埋まらなかった溝”
NEWSポストセブン
水原一平氏はカモにされていたとも(写真/共同通信社)
《胴元にとってカモだった水原一平氏》違法賭博問題、大谷翔平への懸念は「偽証」の罪に問われるケース“最高で5年の連邦刑務所行き”
女性セブン
富田靖子
富田靖子、ダンサー夫との離婚を発表 3年も隠していた背景にあったのは「母親役のイメージ」影響への不安か
女性セブン
尊富士
新入幕優勝・尊富士の伊勢ヶ濱部屋に元横綱・白鵬が転籍 照ノ富士との因縁ほか複雑すぎる人間関係トラブルの懸念
週刊ポスト
《愛子さま、単身で初の伊勢訪問》三重と奈良で訪れた2日間の足跡をたどる
《愛子さま、単身で初の伊勢訪問》三重と奈良で訪れた2日間の足跡をたどる
女性セブン
水原一平氏と大谷翔平(時事通信フォト)
「学歴詐称」疑惑、「怪しげな副業」情報も浮上…違法賭博の水原一平氏“ウソと流浪の経歴” 現在は「妻と一緒に姿を消した」
女性セブン
『志村けんのだいじょうぶだぁ』に出演していた松本典子(左・オフィシャルHPより)、志村けん(右・時事通信フォト)
《松本典子が芸能界復帰》志村けんさんへの感謝と後悔を語る “変顔コント”でファン離れも「あのとき断っていたらアイドルも続いていなかった」
NEWSポストセブン
水原氏の騒動発覚直前のタイミングの大谷と結婚相手・真美子さんの姿をキャッチ
【発覚直前の姿】結婚相手・真美子さんは大谷翔平のもとに駆け寄って…水原一平氏解雇騒動前、大谷夫妻の神対応
NEWSポストセブン
違法賭博に関与したと報じられた水原一平氏
《大谷翔平が声明》水原一平氏「ギリギリの生活」で模索していた“ドッグフードビジネス” 現在は紹介文を変更
NEWSポストセブン
カンニング竹山、前を向くきっかけとなった木梨憲武の助言「すべてを遊べ、仕事も遊びにするんだ」
カンニング竹山、前を向くきっかけとなった木梨憲武の助言「すべてを遊べ、仕事も遊びにするんだ」
女性セブン
大ヒットしたスラムダンク劇場版。10-FEET(左からKOUICHI、TAKUMA、NAOKI)の「第ゼロ感」も知らない人はいないほど大ヒット
《緊迫の紅白歌合戦》スラダン主題歌『10-FEET』の「中指を立てるパフォーマンス」にNHKが“絶対にするなよ”と念押しの理由
NEWSポストセブン