竹下正己弁護士の法律相談コーナー。今回は「退職届を出すと会社側が損害賠償を請求。どう対処すればよいか」という質問が寄せられた。
【質問】
実家の家業を継ぐことになり、会社に退職届を出したのですが、会社側は「お前が辞めると取引先が減る可能性がある。よって、退職したいのなら社に対し損害賠償金100万円を払え」と通達してきたのです。賠償金を払わなければならない意味がわかりませんし、こんな要求が通用するのでしょうか。
【回答】
会社の主張は違法です。会社は、いつまでも労働者を縛ることはできません。憲法第18条は「何人も、いかなる奴隷的拘束も受けない」と定めています。民法第627条1項も「当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する」と定めています。
普通の正社員は、期限の定めのない雇用契約ですから、この規定が適用されます。解約の申し入れは、労働者がする場合には退職であり、使用者がする場合は解雇になります。解雇では、30日の予告期間か予告手当、また解雇権濫用の禁止などで労働者を保護していますが、労働者からの解約にはそうした制限がないので、2週間で退職の効力が生じます。
しかし、同条の2項で「期間によって報酬を定めた場合には、解約の申入れは、次期以後についてすることができる。ただし、その解約の申入れは、当期の前半にしなければならない」とされているので、欠勤しても減給がない完全月給制だと、当月の前半に申し出て、退職は翌月以後に生じます。また、就業規則で民法の定めより短くするのは有効ですが、長くすると、その効力は疑問です。
なお、退職届は合意解約の申し込みに止まり、引き継ぎ期間などを会社と協議の上、退職時期を決めて改めて合意解約する場合が多いといわれています。そこで単なる申し込みではなく、確定的意思として退職する旨申し出て、民法の期間経過時点で雇用関係終了の効果を発生させてください。もちろん、損害賠償義務はありません。
ですが、長年世話になった勤務先であれば、後任者への引き継ぎに協力し、離職手続きを円滑に進めてもらうのが得かもしれません。
※週刊ポスト2013年10月25日号