スポーツ

元阪神・下柳剛 家庭菜園でゴーヤが全部枯れショック受ける

 10月になると、プロ野球はCS、日本シリーズと華やかなイベントが続く。その裏で毎年、多くの選手が職場を追われる。野球界を去った男たちのうちの一人、マウンドでは激情家の投手として知られた下柳剛氏に、作家の山藤章一郎氏が引退後の生活について尋ねた。

 * * *
 春、下柳剛は途方に暮れていた。

「クビいわれて、一瞬、頭の中が真っ白になった。現役のときから引退後どうしようとは、考えたことなかったですから。朝昼晩、やることがない。何するか。思いつかない。冷蔵庫開けたらビールある。1日中酒呑んで」

 45歳。阪神を軸に21年のプロ野球人生。627試合登板。129勝106敗。防御率3.92。西宮市の住宅街のカフェに、緑のポロシャツ、Gパンで現われた。口ヒゲは現役のままである。

「早い時は6時半ころから犬の散歩。夕方も1時間ほど。昼間は週5日、トレーニングに通って、いつでも復帰できるように鍛えてんですけど。あとはヒマ、ヒマ。不安でした。この先も食っていかんといけない。心の救いは犬だけや。そこへ、月に5回ほど、朝日放送ラジオの解説の仕事が来て。自分は恵まれてますよ。それでも不安やね。まだ50のずっと手前で。これからどうなっていくんやろか」

 37歳で1000奪三振を記録、15勝をあげた。その間に、登録抹消を繰り返した。落ちては這い、這っては上がった。闘志を剥きだしにして、怒号で吠え、グラブを叩きつけた。だがいま不安を洩らし、柔和な目を向ける。ふぅ~っと大きな息をついでアイスコーヒーをすする。

「プロの再就職先なんてないですからね。アマの指導者になる研修会、あれがうまく機能したらええね。わしは社会人からドラフトにかかったけど、社会のことはなんにも知らんかった。40越えても図々しく野球やって。プロを育ててみたいとは思うけど、野球以外のことも教えんといかんから、難しいやろうね」

 プロ球界の今年のシーズンは、コミッショナーへの不信、統一球への疑心に難題が集中した。だが、下柳剛には、遠いできごとに映る。

「家庭菜園もやってまして。ベランダでね。桃とリンゴ。ベビーリーフ、イチゴとゴーヤ。ゴーヤは大寒波で全部枯れて、むちゃくちゃショックでした。それをやり直して。しょっちゅうホームセンターに行ってます。もう土なんか100キロ近く買ったなあ。引退後のために多少の蓄えをと心がけたけど、キホン、将来に備える意識はなく、ただ野球してました。税金、税金が大変です。前年の収入に対してかかる。

 税金と犬とベランダ菜園──現実はこんな毎日です」

※週刊ポスト2013年10月25日号

関連記事

トピックス

佳子さまを撮影した動画がXで話題になっている(時事通信フォト)
《佳子さまどアップ動画が話題》「『まぶしい』とか『神々しい』という印象」撮影者が振り返る “お声がけの衝撃”「手を伸ばせば届く距離」
NEWSポストセブン
池田被告と事故現場
《飲酒運転で19歳の女性受験生が死亡》懲役12年に遺族は「短すぎる…」容疑者男性(35)は「学校で目立つ存在」「BARでマジック披露」父親が語っていた“息子の素顔”
NEWSポストセブン
若隆景
序盤2敗の若隆景「大関獲り」のハードルはどこまで下がる? 協会に影響力残す琴風氏が「私は31勝で上がった」とコメントする理由 ロンドン公演を控え“唯一の希望”に
NEWSポストセブン
個別指導塾「スクールIE」の元教室長・石田親一容疑者(公式サイトより※現在は削除済み)
《15歳女子生徒にわいせつ》「普段から仲いいからやっちゃった」「エスカレートした」“やる気スイッチ”塾講師・石田親一容疑者が母親にしていた“トンデモ言い訳”
NEWSポストセブン
9月6日に悠仁さまの「成年式」が執り行われた(時事通信フォト)
【なぜこの写真が…!?】悠仁さま「成年式」めぐりフジテレビの解禁前写真“フライング放送”事件 スタッフの伝達ミスか 宮内庁とフジは「回答は控える」とコメント
週刊ポスト
交際が報じられた赤西仁と広瀬アリス
《赤西仁と広瀬アリスの海外デートを目撃》黒木メイサと5年間暮らした「ハワイ」で過ごす2人の“本気度”
NEWSポストセブン
世界選手権東京大会を観戦される佳子さまと悠仁さま(2025年9月16日、写真/時事通信フォト)
《世界陸上観戦でもご着用》佳子さま、お気に入りの水玉ワンピースの着回し術 青ジャケットとの合わせも定番
NEWSポストセブン
秋場所
「こんなことは初めてです…」秋場所の西花道に「溜席の着物美人」が登場! 薄手の着物になった理由は厳しい暑さと本人が明かす「汗が止まりませんでした」
NEWSポストセブン
『徹子の部屋』に月そ出演した藤井風(右・Xより)
《急接近》黒柳徹子が歌手・藤井風を招待した“行きつけ高級イタリアン”「40年交際したフランス人ピアニストとの共通点」
NEWSポストセブン
和紙で作られたイヤリングをお召しに(2025年9月14日、撮影/JMPA)
《スカートは9万9000円》佳子さま、セットアップをバラした見事な“着回しコーデ” 2日連続で2000円台の地元産イヤリングもお召しに 
NEWSポストセブン
世界的アスリートを狙った強盗事件が相次いでいる(時事通信フォト)
《イチロー氏も自宅侵入被害、弓子夫人が危機一髪》妻の真美子さんを強盗から守りたい…「自宅で撮った写真」に見える大谷翔平の“徹底的な”SNS危機管理と自宅警備体制
NEWSポストセブン
ウクライナ出身の女性イリーナ・ザルツカさん(23)がナイフで切りつけられて亡くなった(Instagramより)
《監視カメラが捉えた残忍な犯行》「刺された後、手で顔を覆い倒れた」戦火から逃れたウクライナ女性(23)米・無差別刺殺事件、トランプ大統領は「死刑以外の選択肢はない」
NEWSポストセブン