ビジネス

故堤清二氏「店を作るんじゃない。街作れ」と社員鼓舞した

 戦後ニッポンを代表する異色経営者がまた一人旅立った。セゾングループを率いた堤清二、享年86。父・康次郎(1889-1964)から引き継いだ西武百貨店は幾多の流行を生み、小売業に現代美術や演劇などの文化活動を融合させた「セゾン文化」はバブル経済を彩った。堤清二とは何者だったのか。晩年の堤氏を幾度も取材したジャーナリスト・児玉博氏がその「実像」を綴る。

 * * *
 清二に長年仕えた元側近は語る。

「堤さんは必死に努力し、それをどう隠すかに腐心し苦悩する経営者でした」

 昔、堤さんがある財界人との関係を作ろうとしたことがありました、とこの元側近はいう。業界で顔の利く清二である。紹介者に頼めばいいことだが、清二は、それを心良しとしない。その財界人が麻雀を趣味としている事を知るや、麻雀本を何冊も買い込み、役を完璧に覚え、料亭で麻雀に興じる財界人のもとに足を運んでは、声がかかるのを待った。いざ、麻雀の段になって、その財界人からこう言われたそうだ。

「君、麻雀やったことないだろ?」

 知識として覚えた麻雀だからしかたない。父・康次郎への思慕、異母弟・義明との確執、様々なしがらみの中で生きた清二のまた一面では、そうした修羅をどこまでも理性で隠そうとする意思が働いていた。決して完璧なる経営者ではなかった。

 康次郎からの継承を断り、赤字経営が続いていた流通部門だけを引き継いだ清二は、東京・池袋の冴えない百貨店だった「西武百貨店」を中核として時代の最先端を走るセゾングループを築き上げた。

 パルコ、西友を展開しながら、美術、演劇などを事業化したセゾンは「セゾン文化」という言葉を生み出し、名を成した。しかし、父譲りの暴君ぶりが顔をだすこともあった。

 かつて、外国人も混じる会議で清二の通訳をつとめた女性は、セゾンの社員たちの不思議な行動に気づいていたと証言する。女性にはいつも笑みを絶やさず、紳士然としていた清二。ところが、清二が会議に顔を見せた途端、社員たちは一様に机の下で握りこぶしを、しかも汗が混じるほど強く握っていた。

「バカ! ちゃんと考えろ」

 清二の叱責の声が飛ぶや、その社員に向けられて灰皿が飛んでいた。1980年代、紛れもなく時代の空気を代弁していたセゾン。そのセゾンを率いる清二の言葉を理解できない社員たちは、一様に苦しんでいたように思う。百貨店の出店1つでも計画を説明する社員に清二の罵声が飛ぶ。

「店を作るんじゃないんだ。街を作るんだ。空間を提供するんだ!」

関連記事

トピックス

児童盗撮で逮捕された森山勇二容疑者(左)と小瀬村史也容疑者(右)
《児童盗撮で逮捕された教師グループ》虚飾の仮面に隠された素顔「両親は教師の真面目な一家」「主犯格は大地主の名家に婿養子」
女性セブン
組織が割れかねない“内紛”の火種(八角理事長)
《白鵬が去って「一強体制」と思いきや…》八角理事長にまさかの落選危機 定年延長案に相撲協会内で反発広がり、理事長選で“クーデター”も
週刊ポスト
たつき諒著『私が見た未来 完全版』と角氏
《7月5日大災害説に気象庁もデマ認定》太陽フレア最大化、ポピ族の隕石予言まで…オカルト研究家が強調する“その日”の冷静な過ごし方「ぜひ、予言が外れる選択肢を残してほしい」
NEWSポストセブン
佐々木希と渡部建
《渡部建の多目的トイレ不倫から5年》佐々木希が乗り越えた“サレ妻と不倫夫の夫婦ゲンカ”、第2子出産を迎えた「妻としての覚悟」
NEWSポストセブン
大阪・関西万博で、あられもない姿をする女性インフルエンサーが現れた(Xより)
《万博会場で赤い下着で迷惑行為か》「セクシーポーズのカンガルー、発見っ」女性インフルエンサーの行為が世界中に発信 協会は「投稿を認識していない」
NEWSポストセブン
詐称疑惑の渦中にある静岡県伊東市の田久保眞紀市長(HP/Xより)
《東洋大学に“そんなことある?”を問い合わせた結果》学歴詐称疑惑の田久保眞紀・伊東市長「除籍であることが判明」会見にツッコミ続出〈除籍されたのかわからないの?〉
NEWSポストセブン
愛知県豊田市の19歳女性を殺害したとして逮捕された安藤陸人容疑者(20)
事件の“断末魔”、殴打された痕跡、部屋中に血痕…“自慢の恋人”東川千愛礼さん(19)を襲った安藤陸人容疑者の「強烈な殺意」【豊田市19歳刺殺事件】
NEWSポストセブン
都内の日本料理店から出てきた2人
《交際6年で初2ショット》サッカー日本代表・南野拓実、柳ゆり菜と“もはや夫婦”なカップルコーデ「結婚ブーム」で機運高まる
NEWSポストセブン
水原一平とAさん(球団公式カメラマンのジョン・スーフー氏のInstagramより)
「妻と会えない空白をギャンブルで埋めて…」激太りの水原一平が明かしていた“伴侶への想い” 誘惑の多い刑務所で自らを律する「妻との約束」
NEWSポストセブン
無期限の活動休止を発表した国分太一
「こんなロケ弁なんて食べられない」『男子ごはん』出演の国分太一、現場スタッフに伝えた“プロ意識”…若手はヒソヒソ声で「今日の太一さんの機嫌はどう?」
NEWSポストセブン
1993年、第19代クラリオンガールを務めた立河宜子さん
《芸能界を離れて24年ぶりのインタビュー》人気番組『ワンダフル』MCの元タレント立河宜子が明かした現在の仕事、離婚を経て「1日を楽しんで生きていこう」4度の手術を乗り越えた“人生の分岐点”
NEWSポストセブン
元KAT-TUNの亀梨和也との関係でも注目される田中みな実
《亀梨和也との交際の行方は…》田中みな実(38)が美脚パンツスタイルで“高級スーパー爆買い”の昼下がり 「紙袋3袋の食材」は誰と?
NEWSポストセブン