〈あえて「さん」をつけさせて頂きますが、菅家さんが無罪なら、早く軌道修正をして欲しい〉〈ごめんなさいが言えなくてどうするの〉と、被害者の母親が検察官につきつける言葉が痛切だ。自らも娘を失いながら、菅家氏を慮るこの母親のように、清水氏自身もごく一般的な市民感覚や違和感こそを大事にし、警察との対決構図もあくまで現場の肌感覚に従った結果。反権力から出発した警察・検察批判とは、順番が逆なのだ。
「ジャーナリズムの生命線は安心安全な暮らしを切望する生活感覚をいかに忘れないかにあると僕は思うし、どんな特ダネも犯人逮捕に繋がらなければ意味がない。ところがそんな我々の願いを当局はことごとく裏切り、今やルパン似の男を“絶対逮捕してはいけない男”にしてしまったんです。
起訴有罪率99%とも聞く彼らが筋読みさえ間違わないならそれでもいい。ただたとえ1%でも立場の弱い人を踏みにじるなら断じて許せないし、彼らが放置する男に二度と大事な命を奪わせないためにも、あえて一人称で書いた怒りが誰かの行動に繋がれば嬉しい」
桶川事件で「被害者の実像を読んでもらうための演出として、警察より先に犯人に辿り着いたと書いた」と氏は語り、ルパン似の男に行き着いた執念の取材も、未だ知れないゆかりちゃんの行方を〈狂おしいほど〉知りたいため。自らが動くことで誰かが動く「報道の力」を信じた、渾身の書である。
【著者プロフィール】清水潔(しみず・きよし):1958年東京生まれ。父の影響で写真を始め、専門学校卒業後、新聞社写真部へ。「メディアで働く入口が写真で、最初から記者志望でした」。新潮社『FOCUS』編集部を経て、現在は日本テレビ報道局記者・解説委員。『FOCUS』連載「交通大戦争」で警視総監感謝状。桶川事件報道及び『遺言』で編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞とJCJ大賞。日テレ移籍後も北関東連続事件報道で民放連最優秀賞など受賞多数。164cm、78kg、A型。
(構成/橋本紀子)
※週刊ポスト2014年1月31日号