「『悪』を演じているつもりは全くなかった。そんなのは後のほうに飛んでいた。気をつけたのは『悪』を前に押し出して演じるんじゃなく、『人間をいかに料理して演じるか』ということ。それは役柄の善悪を問わない。主役と対等に立っていなきゃいけないと意識していました。自分も立ち役として成り立っていないと、主役に失礼だから。
当時、尊敬していたのは成田三樹夫さんです。京都でご一緒すると昼飯行ったり、将棋をさしたり。タモリさんの『今夜は最高!』という番組に二人で出た時は、成田さんが酒を飲んでテンションが高いからタモリさんもタジタジになってね。
最近『仁義なき戦い』をまた観ているんだけど、成田さんは絶品ですよ。粘土質の芝居なんです。乾いてなくて、ヌルッとしている。三船敏郎さんや萬屋錦之介さんはスパーンとした芝居をするし、僕も少し乾きすぎというくらい怒鳴ってしまうんだけど、成田さんは怒鳴る時でも弾けさせない。芝居をずっと転がしている感じがあるんです。
若い頃は良質な人や作品に出合うことを心がけて演じることが大切だと思います。歌手の人がいつの間にか芝居が上手くなることがありますよね。あれも作品や監督や共演者と触れているからです。彼らは音感がいいから、良質な出会いを通して耳から覚えていくんですよ」
●春日太一(かすが・たいち)/1977年、東京都生まれ。映画史・時代劇研究家。著書に『天才 勝新太郎』(文春新書)、『仲代達矢が語る日本映画黄金時代』(PHP新書)ほか新刊『あかんやつら~東映京都撮影所血風録』(文芸春秋刊)が発売中。
※週刊ポスト2014年2月21日号