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クレーム社会 恐怖により自主的な行動避け国民の活力低下へ

 ドラマ『明日、ママがいない』(日本テレビ系)、村上春樹氏の小説、缶チューハイ『キリン本搾り』のCM、全日空のCM…と、いろいろなものに対してクルームや抗議が入り、内容が変更されたり、放送が自粛されたりするケースが次から次へと起きている。ファミリーマートは「残酷な作られ方をしている」と指摘され、フォアグラ入り弁当の販売を中止することとなった。

 もちろん、クレームを入れる側には、正当な理由があるケースがほとんどだが、なかには“モンスタークレーマー”と呼ぶべき、クレームを入れることこそが目的となってしまうクレーマーも少なくない。

 ソフトブレーン創業者で、経営コンサルタントの宋文洲さんも、視聴者からのクレーム攻撃を受けたことがある。2013年、報道番組『真相報道バンキシャ!』(日テレ系)に出演中、ロシアに隕石が落下したニュースに触れ、「尖閣諸島に落下して島がなくなれば、領土問題もなくなって日中は仲よくなる」という趣旨のことを語ったときのこと。

「ぼくとしては『日中が仲よくなってほしい』という意図で、隕石が落ちるわけがない前提に立ったユーモアのつもりでした。ところが、それが大炎上してしまった。私はものすごく悩んで、友人たちに相談したところ、『宋さん、日本人には余裕がなくなったんですよ』と言われました。ぼくもそう思います」(宋さん)

 例えば、「足が短いね」と言われても、自分に余裕があれば、笑い飛ばせる。しかし余裕がない人にはそれができない。日本人は、余裕を失ってしまったのか。評論家の酒井信さんは“余裕のなさ”を感じているひとりだ。

「クレームという形で声を上げることを好む人々は、社会をよくしたいという思いもあるのでしょうが、他人からの承認欲求や、自分の存在欲求を満たしたがっているようにも思えます。

 このような欲求の背後には、ファンタジーの主人公が悪役をやっつけていくような『ハリウッド映画的』あるいは『ゲーム的』な現実感があるように思えます。ボスキャラをやっつけないと、終わらないのだと思います。早い段階で企業のトップ=ボスが出てきて責任の所在を認めることが、クレームを沈静化するための最も有効な方法だと思います」(酒井さん)

 ゲームに勝てばそれなりの喜びは得られるだろう。しかし、それは一時のものにすぎないはずだ。著述家の湯山玲子さんはこう嘆く。

「Aというゲームではクレームをつける立場でも、Bというゲームでは、自分が標的にされるかもわからない。そういう怖さがあります。相互監視社会の誕生ですよ。そうなると、恐怖によって全ての自主的な行動はできなくなりますから、国民の活力は低下していく。なんて窮屈な社会でしょう」

※女性セブン2014年2月27日号

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