国内

釜ヶ崎の施設の子どもたち 姥捨てされた高齢者夫婦を救った

 寒い季節は路上生活者にとっては生きるか死ぬかの日々だ。他にゆくところがなく路上生活する人がいるように、さまざまな事情で保護者とともに暮らせない子どもたちもいる。ベストセラー『がんばらない』で知られる鎌田實医師が、大阪のドヤ街・釜ヶ崎を訪れたときにきいた、施設の子どもが老人を助けた話をつづる。

 * * *
 厳冬の1月、大阪のドヤ街・釜ヶ崎に行ってきた。あいりん地区とも呼ばれる場所。日雇い労働者が仕事を求めて集まる、日本最大の“寄せ場”だ。釜ヶ崎には「こどもの里」という貧困や虐待から子どもを守っている施設がある。

 厳寒のこの季節になると、こどもの里の子どもたちは、ボランティアと一緒に夜回りを開始する。釜ヶ崎には、仕事がなくて日払いの簡易宿泊施設にも泊まれない人々が路上で寝起きをしているので、なんとか凍死者を出さないようにと、子どもたちがおにぎりを片手に配って歩く。温かい汁ものを提供したり、簡易カイロや毛布を配って町を回っているのだ。

 夜回りをしていたボランティアが、80歳くらいの高齢者夫婦が路上で震えているのを発見した。話を聞いてみると、親戚から見捨てられたという。

「釜ヶ崎に行けば家がなくてもなんとかなるだろう」と言われて、釜ヶ崎まで連れてこられ置き去りにされた。持てるだけ持って出てきた荷物の中で、夫婦二人は震えていたそうだ。

 路上生活の経験のない80歳のお年寄りが、この真冬に夜を越すことなど出来るわけがない。本当に危ないところだった。間一髪。すぐにこどもの里に連れ帰り、泊めたという。

 翌日、在宅ケアのプロたちが集まって、この夫婦が入所できる施設を探した。そして、しばらくの間は保護してもらえる施設が見つかったという。とりあえず、高齢者夫婦が凍死しなくてすむ方法が見つかったのだ。

 家族や親戚たちから見捨てられたお年寄りたちが入る養護老人ホームはたくさんあるはずなのに、拒否されるケースが釜ヶ崎だけではなく、全国で横行しているという。

 本来は国と自治体でホーム入所等にかかる費用を半々で負担していたのだが、税源移譲で、市町村の全額負担になった。国が手を引いたのだ。そのため税収が少ない市町村では、養護老人ホームが空いていてもそのままにして、あえて入所させない町もあると聞く。

 一方、生活保護だと、国が4分の3負担するので、市町村負担を軽くするために、養護老人ホームに入れないで、生活保護を受給させてしのぐケースがある。そのほうが市町村の懐が痛まないからだ。

 日本という国は、急激な高齢化が叫ばれて久しい。それなのに現実には具体的な対策はない。抜本的な構造改革をしないと、行き届いた福祉がなくて、とんでもない額の借金ばかりが残る国になってしまう。

※週刊ポスト2014年2月28日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

10月22日、殺人未遂の疑いで東京都練馬区の国家公務員・大津陽一郎容疑者(43)が逮捕された(時事通信フォト/共同通信)
《赤坂ライブハウス刺傷》「2~3日帰らないときもあったみたいだけど…」家族思いの妻子もち自衛官がなぜ”待ち伏せ犯行”…、親族が語る容疑者の人物像とは
NEWSポストセブン
ミセス・若井(左、Xより)との“通い愛”を報じられたNiziUのNINA(右、Instagramより)
《ミセス若井と“通い愛”》「嫌なことや、聞きたくないことも入ってきた」NiziU・NINAが涙ながらに吐露した“苦悩”、前向きに披露した「きっかけになったギター演奏」
NEWSポストセブン
「ラオ・シルク・レジデンス」を訪問された天皇皇后両陛下の長女・愛子さま(2025年11月21日、撮影/横田紋子)
「華やかさと品の良さが絶妙」愛子さま、淡いラベンダーのワンピにピンクのボレロでフェミニンなコーデ
NEWSポストセブン
クマ被害で亡くなった笹崎勝巳さん(左・撮影/山口比佐夫、右・AFP=時事)
《笹崎勝巳レフェリー追悼》プロレス仲間たちと家族で送った葬儀「奥さんやお子さんも気丈に対応されていました」、クマ襲撃の現場となった温泉施設は営業再開
NEWSポストセブン
役者でタレントの山口良一さん
《笑福亭笑瓶さんらいなくなりリポーターが2人に激減》30年以上続く長寿番組『噂の!東京マガジン』存続危機を乗り越えた“楽屋会議”「全員でBSに行きましょう」
NEWSポストセブン
11月16日にチャリティーイベントを開催した前田健太投手(Instagramより)
《いろんな裏切りもありました…》前田健太投手の妻・早穂夫人が明かした「交渉に同席」、氷室京介、B’z松本孝弘の妻との華麗なる交友関係
NEWSポストセブン
高市早苗氏が首相に就任してから1ヶ月が経過した(時事通信フォト)
高市早苗首相への“女性からの厳しい指摘”に「女性の敵は女性なのか」の議論勃発 日本社会に色濃く残る男尊女卑の風潮が“女性同士の攻撃”に拍車をかける現実
女性セブン
イギリス出身のインフルエンサー、ボニー・ブルー(Instagramより)
《1日で1000人以上と関係を持った》金髪美女インフルエンサーが予告した過激ファンサービス… “唾液の入った大量の小瓶”を配るプランも【オーストラリアで抗議活動】
NEWSポストセブン
日本全国でこれまでにない勢いでクマの出没が増えている
《猟友会にも寄せられるクレーム》罠にかかった凶暴なクマの映像に「歯や爪が悪くなってかわいそう」と…クレームに悩む高齢ベテランハンターの“嘆き”とは
NEWSポストセブン
六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)と稲川会の内堀和也会長
六代目山口組が住吉会最高幹部との盃を「突然中止」か…暴力団や警察関係者に緊張が走った竹内照明若頭の不可解な「2度の稲川会電撃訪問」
NEWSポストセブン
警視庁赤坂署に入る大津陽一郎容疑者(共同通信)
《赤坂・ライブハウス刺傷で現役自衛官逮捕》「妻子を隠して被害女性と“不倫”」「別れたがトラブルない」“チャリ20キロ爆走男” 大津陽一郎容疑者の呆れた供述とあまりに高い計画性
NEWSポストセブン
無銭飲食を繰り返したとして逮捕された台湾出身のインフルエンサーペイ・チャン(34)(Instagramより)
《支払いの代わりに性的サービスを提案》米・美しすぎる台湾出身の“食い逃げ犯”、高級店で無銭飲食を繰り返す 「美食家インフルエンサー」の“手口”【1か月で5回の逮捕】
NEWSポストセブン