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2014.03.01 07:00  週刊ポスト

下手な役者がやる芝居は興奮したものばかりと綿引勝彦が解説

 池波正太郎の時代小説『鬼平犯科帳』シリーズは、小説だけでなく二代目中村吉右衛門が主演するテレビシリーズも20年以上続く人気時代劇だ。その「鬼平」に第1シリーズから同じ約でレギュラー出演する俳優の綿引勝彦氏に聞いた、「感情を入れる芝居」についての言葉を映画史・時代劇研究家の春日太一氏がつづる。

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 綿引勝彦の代表作といえば、テレビシリーズ『鬼平犯科帳』(1989年~、フジテレビ)だろう。今もスペシャル版として続く人気時代劇で綿引は、かつては大盗賊の首領だったが鬼平(中村吉右衛門)に諭されて密偵として活躍することになる《大滝の五郎蔵》を演じている。

 五郎蔵という男は喜怒哀楽を決して表に出すことはない。それでいて、その裏側にはいつも、どこか切なげな感情が見え隠れする。そこには、綿引の役者としての強いこだわりがあった。

「『鬼平』では蟹江敬三さんも梶芽衣子さんも僕も、芝居はどこか控え目ですよね。報告者の役なので、その務めとして感情を出さないで事柄だけを伝えることを大事にしています。もちろん感情は入りますよ。入るんだけど、むき出しにはしない。

 演劇の世界には『感情は後払い』という言葉があります。下手な役者がやると興奮した芝居ばかりやってしまいますよね。そうじゃなくて、感情というのはいつも後ろになくてはいけないんですよ。
 
 誰だって、怒りたくても実際には怒らずに我慢するでしょう。いろんな言葉を選びながら、感情を抑える。それは演劇も同じなんですよ。喋るっていう行為には必ず裏に感情があって、今言っている言葉が必ずしも正しいとは限らない。それが演劇の基本なんです。

 役者の我をあんまり出さないで、その役が生きるようにすることしか考えていません。僕が生きるんじゃなくて、その役がその画の中で躍っていればいい。顔が映らなくてもいいんです。僕の演じる音──セリフの音が躍るように、視聴者の耳に心地よくなだれ込むように喋る。それが大事なんですよ。無機質ではなく、それでいてうるさくなく、静かに視聴者の耳に入っていく。それだけですよ」

●春日太一(かすが・たいち)/1977年、東京都生まれ。映画史・時代劇研究家。著書に『天才 勝新太郎』(文春新書)、『仲代達矢が語る日本映画黄金時代』(PHP新書)ほか新刊『あかんやつら~東映京都撮影所血風録』(文芸春秋刊)が発売中。

※週刊ポスト2014年3月7日号

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