ライフ

寝たきり高齢者 4か月の口腔ケアで起き上がり食欲回復例も

 寝たきり状態の高齢者を元気にさせる方法がある。それが口の中の衛生状態や機能を改善する口腔ケアだ。

 高知県で長年高齢者の歯科治療に取り組んできた塩田勉・塩田歯科院長は、病床で生きる意欲を失った患者が、口腔ケアと噛める義歯で、劇的に甦る例を数多く経験している。塩田院長が忘れられないのは1970代後半の男性を歯科衛生士と共に訪問診療した時のことだ。

 男性は脳梗塞のために半身麻痺になり、外出することもなく薄暗い部屋の布団に座ったまま一日中過ごしていた。顔はげっそりと痩せ、無表情で目もうつろだった。塩田院長が話しかけてもほとんど反応がない。

 ところが、ベテラン歯科衛生士が話しかけながら口腔ケアを行なうと、それだけで目に力が甦ったという。その後、義歯を入れ、口腔ケアを行なうたびに表情は生き生きし、笑顔が出るようになった。

 やがて、自分の意思でデイサービスに通い始めたという。

「私が家に立ち寄ると笑顔で迎えてくれて、帰るときには笑顔で手を振って見送ってくれました。食事を口から摂取することで、元気な頃の自分を取り戻したのです。食べることが、人間性を回復する大きな力になることを確信しました」(塩田院長)

 脳梗塞で寝たきりだった70代女性は、ミキサーでドロドロにした食事を夫の介助で食べるのが精いっぱいだった。彼女は死人のようにやつれた顔をしていた。しかし、口腔ケアを始めて義歯を装着し、普通の食事が食べられるようになると、笑顔が出始め、顔もふっくらして生気が甦ったという。

 86歳のパーキンソン病の女性のケースはさらに驚異的だ。彼女は要介護5で寝返りも打てず、摂食障害のため鼻からチューブで栄養補給をしていた。

 塩田院長は口腔ケアから開始した。歯科衛生士が濡らした歯ブラシをゆっくりと口内に入れ、歯ぐきだけでなく頬や舌などもやさしく刺激していった。その刺激で女性の目が輝き出した。

 週1回の専門的な口腔ケアをし、日常的な口腔ケアを担当看護師に指導して、鼻のチューブを外してもらった。並行して噛める義歯を入れると、4か月後にはベッド上で体を起こし、寿司を食べられるまで回復した。

「歯科衛生士に寄せる患者さんの信頼感も大きく影響しています。歯科衛生士の専門的な口腔ケアを行なっただけで、寝たきりで無表情だった患者さんに笑顔が戻り、会話をするようになった例はたくさんあります。口腔内の刺激が脳を覚醒させたのです」(塩田院長)

※週刊ポスト2014年4月25日号

あわせて読みたい

関連キーワード

トピックス

全米野球記者協会ニューヨーク支部主催のアワードディナーに出席した大谷翔平と、妻・真美子さん(左/時事通信フォト、右/提供:soya0801_mlb)
《真美子さんが座る椅子の背もたれに腕を回し…》大谷翔平が信頼して妻を託す“日系通訳”の素性 “VIPルーム観戦にも同席”“距離が近い”
NEWSポストセブン
司法省がアンドリュー元王子の写真を公開した(写真/Getty Images)
《白シャツ女性に覆いかぶさるように…》エプスタイン・ファイルで新公開されたアンドリュー元王子とみられる人物の“近すぎる距離感の写真” 女性の体を触るカットも
NEWSポストセブン
(時事通信フォト)
【2・8総選挙「大阪1〜10区」の最新情勢】維新離党の前職が出た2区、維新前職vs自民元職vs野党候補の5区で「公明党票」はどう動くか
NEWSポストセブン
なぜ実の姉を自宅で監禁できたのか──
《“お前の足を切って渡すから足を出せ”50代姉を監禁・暴行》「インターホンを押しても出ない」「高級外車が2台」市川陽崇・奈美容疑者夫妻 “恐怖の二世帯住宅”への近隣証言
NEWSポストセブン
東京拘置所(時事通信フォト)
〈今年も一年、生きのびることができました〉前橋スナック銃乱射・小日向将人死刑囚が見せていた最後の姿「顔が腫れぼったく、精神も肉体もボロボロ」《死刑確定後16年で獄中死》
NEWSポストセブン
間違いだらけの議事録は「AIのせい」(写真提供/イメージマート)
《何でもAIに頼る人たち》会社員女性が告白「ケンカの後、彼から送られてきた”彼女の方が悪い”とAIが回答したスクショ」ほどなく破局
NEWSポストセブン
国際ジャーナリスト・落合信彦氏
国際ジャーナリスト・落合信彦氏が予見していた「アメリカが世界の警察官をやめる」「プーチン大統領暴走」の時代 世界の“悪夢”をここまで見通していた
NEWSポストセブン
高市早苗首相(時事通信フォト、2025年10月15日)
《頬がこけているようにも見える》高市早苗首相、働きぶりに心配の声「“休むのは甘え”のような感覚が拭えないのでは」【「働いて働いて」のルーツは元警察官の母親】 
NEWSポストセブン
ジェンダーレスモデルの井手上漠(23)
井手上漠(23)が港区・六本木のラウンジ店に出勤して「役作り」の現在…事務所が明かしたプロ意識と切り開く新境地
NEWSポストセブン
元日に結婚を発表した女優の長澤まさみ(時事通信フォト)
長澤まさみ「カナダ同伴」を決断させた「大親友女優」の存在…『SHOGUN』監督夫との新婚生活は“最高の環境”
NEWSポストセブン
国際ジャーナリスト・落合信彦氏
【訃報】国際ジャーナリスト・落合信彦氏が死去、84歳 独自の視点で国際政治・諜報の世界を活写 
NEWSポストセブン
薬物で急死した中国人インフルエンサー紅紅(左)と交際相手の林子晨容疑者(右)(インスタグラムより)
「口に靴下を詰め、カーテンで手を縛り付けて…」「意識不明の姿をハイ状態で撮影」中国人美女インフルエンサー(26)が薬物で急死、交際相手の男の“謎めいた行動”
NEWSポストセブン