WindowsXPのサポート終了で、PCを買い替えた人も少なくないだろう。そのとき、ひときわ薄くて軽いノートパソコン、LaVie Z(NEC)が目に入ったはずだ。たった795グラムでバカ売れした世界最軽量ノートパソコンの開発秘話について、作家の山下柚実氏が報告する。
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NECパーソナルコンピュータのコンシューマ商品企画本部・中井裕介氏(30)は雄大な夢を描いた。入社5年目、20代の若さで、Ultrabook(ウルトラブック)の開発を任されたからだ。
「世界で一番軽いノートパソコンを作りたい」
これは大仕事だ。入社以来温めてきたものを「鋭く尖った商品」に結晶化させよう。「世界最軽量」という言葉にこだわろう。山形県米沢工場。NECのモノ作りを担う先輩の技術開発チームと顔をつきあわせて、会議に臨んだ。
「ただの軽い製品ではなくて、他製品よりもダントツに軽いノートパソコンを世に出したいのです」
必死に説明した。
「市場では13型クラスのノートPCで重さ1キログラムを切る製品はまだありません。いや、1キログラムを切るだけでは追いつかれる。思い切って、900グラムの壁を切るような斬新な製品を出したい」
「世界で一番軽い」ノートPCの提案だ。ビジネスユースの実用性からすると画面は13型が理想だが、そこは仕方ない。900グラムを切るためには11型で妥協するしかないかもしれない……。
そう考えていた。ところが、モノ作り現場のトップから驚くべき言葉が返ってきた。
「つまり、13型で画期的な軽量化をやればいいんだろ? やれ、と指示を出してくれ。必ず実現してみせるから」
密かに温存してきた技術力を発揮する機会をうかがっていた職人肌の技術陣に、中井氏が挑発されたのだ。それは、通常ではありえない「逆提案」だった。
技術開発陣が温めてきた、軽量化の切り札があった。「マグネシウムリチウム合金」だ。耳慣れない素材だが、1960年代にロケットなどに用いられた。曲げや絞りといった加工が非常に難しいために、いまだパソコンなどには使われていなかったのだ。ちなみに、通常のノートPCの底板に使われているのはアルミニウム。マグネシウムリチウム合金は、なんと半分の比重しかない。
「その研究を、技術戦略の担当者が何年もかけて関係各社と続けてきていたんです。地道な素材研究の積み重ねと、『世界最軽量パソコン』というキーワードが、その時スパークしました」