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中韓の日本侵略史共同研究 足並み乱れればバッシング合戦も

 韓国政府は1月に中国、東南アジア諸国と共同で、日本による「帝国主義侵略史」を研究する構想を公表。中国側は外交部の報道官が「韓国が日本の侵略史について国際共同研究を行なうと決定したことを我々は支持する」と応じた。

 では、この両国が歴史共同研究に踏み出すとどうなるか。実は韓国と中国の間には対日関係以上に深刻な「歴史問題」が数多くある。在韓ジャーナリストの竹嶋渉氏はこう指摘する。

「根深いのが紀元前1世紀から7世紀にかけて存在した高句麗の問題です。勢力圏は中国東北部から朝鮮半島北部にかけてあったとされるため、中韓ともに自国の歴史に組み込もうとしています。中国が2002年から始めた『東北工程』という歴史研究プロジェクトで高句麗史を中国史に編入しようとしたところ、韓国では100万人署名運動や中国大使館前での反中デモ、外交通商委員会での糾弾決議など激しい反発が起きました」

 中国の狙いは明確で、北朝鮮崩壊の際に半島への影響力を高めることだ。一方の韓国にとっては南北統一を目指す意味でも、“朝鮮民族の偉大な歴史”を守る争いで一歩も引けない。

 現代史では朝鮮戦争の扱いが非常にデリケートだ。この戦争を韓国では、「韓国戦争(または6.25動乱)」と呼び、北朝鮮では米帝の傀儡(かいらい)国家となった韓国を解放する「祖国解放戦争」、中国では米国に対抗して朝鮮を支援した「抗美援朝戦争」と呼ぶ(美は中国語でアメリカのこと)。

「それぞれの国で大きく意味合いが異なり、戦争勃発のきっかけが南進か北進かの決着もついていない。中国にしてみれば、冷戦下で北朝鮮を支援した自国は100%正しいという立場ですが、その中国軍に韓国は国民を殺され、国土を荒らされているわけです。どうすれば折り合いがつくのか、想像もつきません」(竹嶋氏)

 中韓の政府が日本の侵略史にテーマを限定しようとしたところで、仮に些細な点でも足並みが乱れれば、両国の国民からは相手の歴史認識を糾弾する声が上がり、「高句麗は中国のものだ」「朝鮮戦争での蛮行を謝罪しろ」といったバッシング合戦になる。

 周知の通り両国間には「離於島(イオド・中国名=蘇岩礁)」を巡る領土問題もある。中国問題評論家の宮崎正弘氏はこう指摘する。

「1992年に韓国の盧泰愚大統領が中韓国交正常化のために北京に行った時、会見で『朝鮮戦争に関する謝罪を中国政府に要求した』と発言し、中国側が『そんな話は一切出なかった』と否定したことがありました。盧氏は国内向けに体面を保つための嘘をついた可能性が高い。そういう誤魔化しの上に中韓関係は成り立っているのです」

 1992年当時ならいざ知らず、ネット時代にはその場しのぎの誤魔化しもできない。

※SAPIO2014年5月号

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