【書評】『馬を食べる日本人 犬を食べる韓国人』鄭銀淑(チョン・ウンスク)/双葉新書/896円
【評者】荻野伸也(『OGINO』オーナーシェフ)
日本人の常識が外国に行くと全くの非常識で、恥ずかしい経験をしたことが何度もあります。それも今となってはいい思い出です。国家間の相違は隣国・韓国でも同じこと。本書はインパクトある題名を見て手に取りました。愛犬家の私にとっては「まさか犬を食べるなんて、なんてこった!!」ですが、逆もまた然りでしょう。
韓国では、青銅器時代から馬は欠かせぬ運搬手段で、戦では敵と戦う同志。伝統的な結婚式では新郎は白馬に乗って新婦の家を訪れ、その馬が大きくいななけば男の子が生まれる瑞兆とされたそうです。
一方、犬肉食の歴史も古く、『東国歳時記』(1849年)に、犬肉を蒸しネギを入れ炊いた中に唐辛子・ご飯を入れて食すと活力が蘇るという記述があるそうです。現在の「補身湯」と呼ばれる犬スープが一般化したのは1940年代半ばで、貴重なたんぱく源として食されていたそうです。
考えれば、食をはじめとする文化の違いは世界各国にあってしかるべきで、特に日本や韓国のような、歴史が比較的長い単一民族が独自の文化を築いてきたことは当然です。ですからそれらを興味本位に面白がるのはナンセンスで、相互理解と交流の一助とする方がグローバルな今の時代にふさわしいでしょう。本書では、価値観・習慣・文化…日本と韓国の間で見られる齟齬が、女性著者ならではの冷静な視点で描かれています。
飲食・大衆文化・家庭・性など、エピソードごとに見ていくと、一つ一つ考えさせられます。〈仕事が理由で親の死に目にあえないなんて、とんだ親不孝〉などのように韓国では「孝」が重んじられますが、そうした家族観や人づきあい、熱烈な愛国心は見習うべきだと感じます。逆に、何事も肩書重視であったり(外資系銀行員約3000人の927人が取締役以上を名乗っている)、ブルーワーカーの乗り物・自転車に乗るのはみっともないという見栄っ張りな考え方などは、行きすぎた学歴社会がコンプレックスの源泉であるように思えます。
いずれにしても、日本と韓国は今後、あらゆる意味で近くなっていくでしょう。著者がいうように、大切なのは「国」よりも「人」を見ること。一時の感情や偏見、政治的思惑などによらず、人対人のおつきあいが大切になるのではないでしょうか。
※女性セブン2014年6月12日号