若手時代に先輩スターたちの現場を数多く見てきたことが、後の松方の芝居に大きな影響を与えることになる。『遠山の金さん』の白州での凜々しい姿や、任侠映画での美しい着流し姿などは、まさにその成果といえる。
「今は自分で衣装を着たり帯を締められる役者はいないでしょう。着流しを衣装さんに着せてもらう時、今の俳優さんは足を開いて突っ立っている。それだと、帯から下がフレアスカートみたいになってしまいます。
僕は、着流しを着る時は足をクロス気味に閉じて着ます。そうすると、タイトスカートになるんです。先輩がそうして着ているのを僕は見てきましたが、今の若い俳優さんは見ていない。それでは何十回着てもダメです。袴の位置も帯の位置も、自分で前を合わせてちゃんと着ないと。帯も締められっぱなしだから、途中で苦しいと言い出す。帯も自分で巻きながら二重目に来た時にブレーキを引っかけると絶対に締まらないんですよ。
中村嘉葎雄さんに教えてもらったこともたくさんあります。一緒にやらせてもらった時に、いろいろと聞きました。
たとえば『遠山の金さん』の長袴。あれは素足で穿いてなくて、大名用の高い雪駄を履いているんです。そうすると、女性がハイヒールを履くのと同じで、立った姿が物凄くイイんです。
それから、長(袴)の裾を前に飛ばす時、素足で穿いていると上手く飛ばない。裾の先に小銭を入れておくんです。すると、それが重しになって伸びがよくなる。そういうのは嘉葎雄さんに教えてもらいましたね」
●春日太一(かすが・たいち)/1977年、東京都生まれ。映画史・時代劇研究家。著書に『天才 勝新太郎』(文春新書)、『仲代達矢が語る日本映画黄金時代』(PHP新書)、『あかんやつら~東映京都撮影所血風録』(文芸春秋刊)ほか。
※週刊ポスト2014年8月8日号