国がそうした指針を定めるべきなのに、それすらできていないというお粗末な状態で再稼働とは、あまりにも国民を馬鹿にした話である。
福島の最大の教訓は、政府や電力会社などの原発関係者が自分たちの論理、つまり「安全神話」を押し通し続けた傲慢が事故を招き、被害を拡大させるとわかったことである。
逆にいえば、まず彼らが“嘘をつく癖”を直して常に自戒しながら何度でもリスクを再検証し、普段から学習と訓練を積まなくてはならない。政府や自治体にもその謙虚さがなければ、再稼働してはならないのだ。
私は昨年、月刊誌『SAPIO』で東電の廣瀬直己社長と対談した際に、こう問うた。
「結果的に政府も東電も長期間、大規模な炉心溶融(メルトダウン)は起こっていないという立場をとっていた。これは実態と違うと認識していながらも、ずっと引きずられていた。『嘘をついていた』のではないですか?」
これに対し廣瀬社長は、
「ご指摘の通りです。(中略)今なお東電は情報を隠しているとか、発表が遅いといったお叱りを受けるケースがありますが、この点を真摯に反省して今後に生かしていかなければならないと思っています」
と答え、安全神話の嘘と決別することを約束した。
残念ながら、それは実現していない。なにしろ東電は今頃になって、ようやく福島第一原発3号機で核燃料が圧力容器を突き破り、格納容器に落下する「メルトスルー」が早期に起こっていたことを認めたのだ。
私は事故直後から「メルトダウンどころか、溶融した燃料が圧力容器の底をメルトスルーして格納容器の底に溜まっている」と指摘していた。それをずっとしらばっくれていたのである。政府や電力会社に嘘をつくなというのは、猫にワンと鳴けというくらい難しいことなのかもしれない。
現状のまま再稼働することには断固反対だが、私はそれでも原子力は日本に必要だと考えている。