ビジネス

社外取締役起用を義務づけする改正法は現場を知らぬ素人考え

 国のリーダーが独裁化することへの危険性はたびたび指摘されていることであり、誰もが共通の認識としてもっているだろう。同じことは会社組織でも起こりやすく、それを防ぐために改正会社法が成立した。しかし大前研一氏は、この改正法が経営に良い効果をもたらすと考えるのは幻想であると指摘している。

 * * *
 社内の人間だけだと内向きになってトップに物申すのが難しくなる、外部の目によるチェックで不正をなくして効率的な経営を促すといった理由から、大企業に事実上「社外取締役」の起用を義務づける改正会社法が、先の国会で成立した。来年4月施行の見通しだ。

 しかし、これは企業経営の現場を知らない“素人”の戯言(たわごと)であり、幻想である。

 私自身、コンサルタントとしてオーナー経営者のアドバイザーを数多く経験してきた。また、フィル・ナイト会長率いるナイキや孫正義社長のソフトバンクなど、多くの会社の社外取締役を務めたが、こと事業戦略において有効な提言ができた社外取締役は見たことがない。なぜなら、社外取締役はその業界の人間ではないからだ(同業者は選任できない)。

 大半は他業界の経営者、弁護士、会計士、あるいは天下りの元役人である。そういう人たちが業界の専門的な知識や経験を必要とする事業戦略で役に立つはずがないだろう。

 企業というものは、トップが真っ当にマイルドに民主的に経営していて事業が順調に伸びている場合、社外取締役の役割はない。そういう時は、最も事業分野に詳しい社員たちがやる気になって本業に取り組めばよいのである。

 社外取締役が必要なケースは二つしかない。一つはトップが独裁化して暴走し始めている場合、もう一つはトップがあまりにもだらしなくて能力がない場合だ。

 前者の場合、社外取締役は「トップが誤った判断をしたら身を挺して止める」ということしかできない。“独裁者”は勝手気ままに弾を撃つから誤射も多いが、そのうちの1発か2発は、社外取締役が身を挺すれば止められる。しかし、独裁者の性格までは絶対に変えることができないのだ。

 また、社外取締役が独裁者に対して耳の痛いことを言えば、次の任期では再選されない可能性が高い。社外取締役を事実上義務化しても、再任されないことを恐れず、独裁者に諫言(かんげん)することができるような人物を起用しなければ、何の意味もないのである。

 一方、後者の場合、社外取締役はダメ経営者に「そろそろ辞めたほうがいい」と進言し、有能な後継者を準備しなければならない。なぜなら、日本企業の場合はダメ経営者でも株主総会で辞任に追い込まれることは滅多になく、周囲の圧力がなければ、できるだけ長く居座ろうとするからだ。

※週刊ポスト2014年9月12日号

関連キーワード

トピックス

足を止め、取材に答える大野
【活動休止後初!独占告白】大野智、「嵐」再始動に「必ず5人で集まって話をします」、自動車教習所通いには「免許はあともう少しかな」
女性セブン
今年1月から番組に復帰した神田正輝(事務所SNS より)
「本人が絶対話さない病状」激やせ復帰の神田正輝、『旅サラダ』番組存続の今後とスタッフが驚愕した“神田の変化”
NEWSポストセブン
大谷翔平選手(時事通信フォト)と妻・真美子さん(富士通レッドウェーブ公式ブログより)
《水原一平ショック》大谷翔平は「真美子なら安心してボケられる」妻の同級生が明かした「女神様キャラ」な一面
NEWSポストセブン
裏金問題を受けて辞職した宮澤博行・衆院議員
【パパ活辞職】宮澤博行議員、夜の繁華街でキャバクラ嬢に破顔 今井絵理子議員が食べた後の骨をむさぼり食う芸も
NEWSポストセブン
《那須町男女遺体遺棄事件》剛腕経営者だった被害者は近隣店舗と頻繁にトラブル 上野界隈では中国マフィアの影響も
《那須町男女遺体遺棄事件》剛腕経営者だった被害者は近隣店舗と頻繁にトラブル 上野界隈では中国マフィアの影響も
女性セブン
山下智久と赤西仁。赤西は昨年末、離婚も公表した
山下智久が赤西仁らに続いてCM出演へ 元ジャニーズの連続起用に「一括りにされているみたい」とモヤモヤ、過去には“絶交”事件も 
女性セブン
日本、メジャーで活躍した松井秀喜氏(時事通信フォト)
【水原一平騒動も対照的】松井秀喜と全く違う「大谷翔平の生き方」結婚相手・真美子さんの公開や「通訳」をめぐる大きな違い
NEWSポストセブン
海外向けビジネスでは契約書とにらめっこの日々だという
フジ元アナ・秋元優里氏、竹林騒動から6年を経て再婚 現在はビジネス推進局で海外担当、お相手は総合商社の幹部クラス
女性セブン
大谷翔平の伝記絵本から水谷一平氏が消えた(写真/Aflo)
《大谷翔平の伝記絵本》水原一平容疑者の姿が消失、出版社は「協議のうえ修正」 大谷はトラブル再発防止のため“側近再編”を検討中
女性セブン
被害者の宝島龍太郎さん。上野で飲食店などを経営していた
《那須・2遺体》被害者は中国人オーナーが爆増した上野の繁華街で有名人「監禁や暴力は日常」「悪口がトラブルのもと」トラブル相次ぐ上野エリアの今
NEWSポストセブン
交際中のテレ朝斎藤アナとラグビー日本代表姫野選手
《名古屋お泊りデート写真》テレ朝・斎藤ちはるアナが乗り込んだラグビー姫野和樹の愛車助手席「無防備なジャージ姿のお忍び愛」
NEWSポストセブン
運送会社社長の大川さんを殺害した内田洋輔被告
【埼玉・会社社長メッタ刺し事件】「骨折していたのに何度も…」被害者の親友が語った29歳容疑者の事件後の“不可解な動き”
NEWSポストセブン