一方春彦は大正2年東京生まれ。戦時中は日華学院で教え、東京外大教授等を歴任後、平成16年、91歳で永眠。初代に比べ、〈知的であり、笑いは多かったけれど、涙させることはなかっただろう〉と氏は父親像を淡々と綴り、父子にありがちな屈託を感じさせない。
「そりゃ父子なんだからいろいろあるに決まってる(笑い)。ただ母が生きているうちは悪口は控えようかなって。妻から見る夫像と息子から見る父親像は絶対違いますから。ちなみに二部の親子対談は僕の完全な創作。要するにナット・キング・コールと娘の没後共演をイメージしたんだけど、親子でこんな会話、しないしない(笑い)。
外から見るのと違って祖父の代から家族は大変だったと思います。僕自身も金田一家の名前で損したり得したり。でも、結局、人はみな誰かの三代目なんだってこと。人間、自分だけが突然生まれてくるわけもなく、誰もが祖父や父を背負って生きている。だから百年の計はこの世の三代目総てにあるのかもしれない」
言葉も同じだ。生きているからこその変化が何を生もうと、人は百年、また百年と、営みを重ねるしかない。その歩みを代々見つめてきた三代目の眼差しは、道理で優しいはずである。
【著者プロフィール】金田一秀穂(きんだいち・ひでほ):1953年東京生まれ。上智大学文学部心理学科卒。東京外国語大学大学院修了。中国大連外語学院講師、ハーバード大客員研究員等を経て、現在杏林大学教授。テレビにも多数出演。『「汚い」日本語講座』『人間には使えない蟹語辞典』等著書多数。長男は演劇、長女は和菓子職人の道へ。「京助も春彦も僕も自分の好きなことをやってきたのが金田一家。子供には食えなくても頑張れって、応援してます」。171cm、73kg、O型。
(構成/橋本紀子)
※週刊ポスト2014年10月10日