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昭和天皇実録 国の舵取りしなければならぬ元首の立場を示す

 昭和天皇の生涯の記録である『昭和天皇実録』が宮内庁による9月9日に公開された。『実録』は同時に、現代に続く国民と皇室の在り方を考えるうえでも重要な記録となる。文芸評論家の富岡幸一郎氏が今上陛下へ受け継がれたものを読み解く。

 * * *
 今回の実録で、昭和二十年戦局の悪化のなか終戦に向けて政府が動き出している時期の、七月三十日、八月一日、二日と宇佐神宮、氷川神社、香椎宮などへ勅使を派遣され「敵国撃破」を祈念する「御祭文」が奉告されていた事実があきらかになったが、戦争終結の決断で固まっていた天皇が、この時期になぜ戦勝祈願なのかという疑問が生ずるかも知れない。

 しかし祭祀王としての天皇という側面を考えれば、本土決戦かポツダム宣言受諾かといった立憲君主としての決断(選択)とともに、戦局の挽回を神に祈るということは、むしろ当然の行為ではないだろうか。歴史学者などがさまざまなコメントを寄せているが、昭和天皇が昭和という時代の君主であったのは、まさに「一人にして両身あるが如し」の使命と困難をわが身に受けられておられたことを忘れるべきではないと思われる。

 近代国家という「国」のかたちのなかで、天皇という日本の悠久の歴史を生きる存在であるとともに、西洋列強の植民地政策と帝国主義の激烈な時代のなかでの国の舵取りをしなければならない元首の立場に昭和天皇が置かれていたことは、実録の全体から否応なく浮かびあがってくる。

 昭和天皇の終戦後の全国巡幸は、祈りの王としての天皇が、まさしく国民の(昭和帝においては「臣民」であり、「赤子」)安寧を行動として示された出来事であり、それは今上陛下へとしっかりと受け継がれているのである。

 東日本大震災直後の今上陛下のビデオメッセージは、国家元首が被災者と全国民に向けて発した、深い祈りにみちた言葉であったことを改めて想起する。戦後の憲法によれば、天皇は象徴であり、大日本帝国憲法第四条に記されているような「國ノ元首」ではない。

 しかし終戦後の「人間宣言」以降の昭和天皇が、哲学者の和辻哲郎がいったように「国民全体性の表現者」として、「日本国民統合」の「象徴」であったように、今上陛下の言葉は巨大な災厄と国難のときに、まさにこの国の「言霊(言霊)」の力を示した。

 今上陛下は、昭和六十一年五月、皇太子としてこう語られていた。

《天皇と国民との関係は、天皇が国民の象徴であるというあり方が、理想的だと思います。天皇は政治を動かす立場にはなく、伝統的に国民と苦楽を共にするという精神的立場に立っています。

 このことは疫病の流行や飢饉にあたって、民生の安定を祈念する嵯峨天皇以来の写経の精神や、また「朕、民の父母となりて徳覆うこと能わず、甚だ自ら痛む」という後奈良天皇の写経の奥書などによっても表われていると思います》

※SAPIO2014年11月号

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